時間
ヒロが社長室の扉を開いたのを皮切りに、彼を含む五人が変身した。彼らに続き、日向も変身する。
「やれやれ……今日は少しばかり用事があったのだが、まあ良いだろう。君たちにより成長してもらった方が、私としても都合が良い」
何やら彼は、何かを企んでいる様子だった。ヒロは雷の剣を手元に生み出し、その刀身から電流を放った。同時に、鈴菜は星型の光を、紅愛は光線を連射する。逢魔は瞬間移動を繰り返し、標的に打撃や蹴りを加えようとする。しかし日向も瞬間移動のような挙動を繰り返し、全ての攻撃をかわしていった。
そんな強敵を前にして、紅愛は仲間に忠告する。
「気をつけろ。日向の魔術は……時間を止めることが出来る」
確かに、彼に時間を止める力があるとすれば、今まで起きたあらゆる不可解な現象に説明がつくだろう。
「ほう……ついにそこまでたどり着いたか。流石は紅愛……と、言ったところだ」
「ああ。元々その可能性を考えてはいたが、アンタに貰った新しい魔法石を使った時に確信に至った。まるで、この世の全ての情報が頭に流れ込んできたかのようだった」
「それもそのはずだ。何しろあの魔法石はアカシック・ラプラス……アストロロギアの魔術も使える上で、更にこの世で起きたあらゆる事象を知ることが出来る代物なのだからな」
あの時、紅愛はとんでもない魔法石を渡されていたようだ。当然、彼女は今の日向が企てていることを知っている。
「いいか、皆。絶対に、日向を地下室には行かせるな。アイツはスワンプマンの技術で、究極のウィザードを生み出そうとしている。そしてアイツは、それを利用するつもりだ!」
そう――あの男がスワンプマンを生み出してきたのは、ただ人材を再利用するためだけではない。人間を複製し、記憶を移植できるということは、一人の人間を生み出せるということを意味しているのだ。
無論、瞬間移動を使える日向は、今すぐにでも地下室に行けるだろう。しかし彼には、ヒロたちと手合わせする理由がある。
「そして君たちにしみついた戦闘のノウハウも、そのウィザードに移植する。さあ、かかってくると良い。それで君たちが死んでも、また作り直せば良いだけだ」
この期に及んでもなお、彼はヒロたちを利用するつもりでいた。ヒロは握り拳を震わせ、それから一心不乱に剣を振る。
「俺は君を許さない……日向!」
「それで良い。君たちが私を敵視している方が、今や私としても都合が良いからな」
「黙れ!」
激昂した彼がいくら剣術を駆使しても、眼前の敵には傷一つつかない。鈴菜と紅愛は光線を連射し、逢魔も標的の死角に潜り込み、彼を援護していった。しかし五人の力を束ねても、強敵はあらゆる攻撃をかわしていくだけだ。
いつのまにか、日向の手には一本の刀が握られていた。直後、ヒロたちの体には、一斉に無数の切り傷が刻まれた。
「……!」
ヒロは動揺しつつも、仲間と共に周囲を見渡した。そして彼らは、廊下を走る者の魔力を感じ取る。
「まずい……アイツ、地下室に向かっているぞ!」
逢魔は叫んだ。残る四人は無言で頷き、彼と共に社長室を飛び出す。それから彼らは廊下を走り抜けつつ、日向との戦いを続行した。無論、時間を止める魔術を持つ強敵には、五人の攻撃がまるで当たらない。
「ククク……これが私の魔法石――クロノドミネーターの力だ。そして君たちは、更に大いなる力を目の当たりにすることになるだろう」
そう呟いた日向は、不敵な笑みを浮かべた。彼が再び瞬間移動のような挙動を見せるや否や、ヒロたちの腹部は勢いよく出血する。
そんな攻防を繰り広げてきた末に、ヒロたちと日向はいよいよ地下室に辿り着いた。
――彼らの目の前には今、何本ものケーブルに繋がれたヘッドギアを着用された美少年がいる。その首からは、フラッシュキャノンが下げられていた。