仲間
二日後、逢魔は再び医務室を訪れた。全身に深い傷を負っている彼の手には、一つの魔法石が握られている。これは、あの軍勢が使っていた量産型の魔法石――フラッシュキャノンだ。怪訝な顔をするヒロたちに対し、逢魔は得意気な笑みを見せる。
「先ほど、俺はウィザードの軍勢と戦ってきた。そして一つだけ手に入れてきたんだよ……魔法石をな」
魔法石が無い限り、ウィザードは戦えない。それを理解していた彼は、たった一人で戦場に乗り込んできたということだ。
「ありがとう」
ヒロは礼を言った。彼に続き、鈴菜と紅愛、そして天真も礼を言う。
「流石ッスよ! 逢魔! 助かったッス!」
「ありがとな……逢魔」
「ありがとう。キミは本当に、ボクたちのことを想ってくれているんだね」
今の彼らにとって、逢魔は頼もしい存在だ。しかし当の本人は、少しばかり不服そうな顔をしている。
「お前らのことを想ってる? 違うね……俺はただ、日向への復讐を遂げたいだけだ。ほら、誰でも良いから魔法石を持って、早くヨハネを倒してきなよ」
そう返した逢魔は、目を逸らしながら己の後ろ髪を掻いていた。ヒロは微笑み、彼から魔法石を受け取る。
「俺は君たちを悲しませた。今度は、俺が君たちの希望になる」
しかし、量産型の魔法石の持ちうる力は限られている。ましてやたった一人でその魔法石を使うのであれば、ヨハネを倒すことはあまり現実的ではないだろう。そこで逢魔は、ヒロに忠告する。
「なあ、ヒロ」
「どうした?」
「……死ぬんじゃねぇぞ」
それは紛れもなく、彼自身の本心から出た言葉だった。ヒロは深く頷き、こう返す。
「君も、あまり無茶をするんじゃないぞ。俺も今は、君に死んで欲しくないと思っているから」
かつて敵対していた相手から出てきた言葉は、逢魔にとっていささか衝撃的なものだった。
「まあ、俺は強いからな。貴重な戦力は、そりゃあ失いたくないだろ」
逢魔はそう言ったが、それはヒロの意図したことではない。
「……確かにそれもあるかも知れないけど、それ以上に俺たちは、君を大切な仲間だと思っている。君たちもそうだろ?」
屈託のない笑みを浮かべたヒロは、鈴菜の方へと振り向いた。彼に続くように、逢魔も同じ方向を見る。そしてヒロの質問に対し、鈴菜は満面の笑みで答える。
「もちろんッスよ! 逢魔はヴィランだけど、良い奴ッスよ! そうッスよね! 紅愛さん、天真さん!」
嬉々とした声色をした彼女が目を向けた先には、紅愛と天真がいる。
「そうだな。オレも同感だ。逢魔も、アンタも、ヒロも天真も……誰一人として死なせたくはねぇ」
「ふふ……ボクは最初、ヴィランを仲間にするなんて正気じゃないと思っていたよ。だけど、今ボクたちの目の前にいるヴィランは、最高にイケてるじゃないか」
何やら二人も、逢魔のことを仲間として大切にし始めていたようだ。そんな中で、逢魔は今までにない感情を抱きつつある。
「この気持ちはなんだ……? 俺はずっと、ヴィランとして生きてきて、誰かに感謝されたことなんか一度も無かった。晴香、千郷、伊吹……お前らにも、この気持ちを味わわせてやりたいよ……」
その感情の正体は、今の彼にはわからない。ただ一つ言えるのは、彼の中で何かが満たされたということだ。そんな彼の方へと歩み寄り、鈴菜は彼の肩を優しく叩く。
「仲間のこと、大切に想ってたんスね……逢魔」
「ああ、そりゃあな。それこそ、天真の言っていた『コイツには死なれたくない』ってヤツだよ」
「じゃあ、ウチらも死ぬわけにはいかねぇッスね。またアンタを悲しませるわけにはいかねぇッスから」
日々が流れていくにつれて、五人の心は徐々に結束を固めていったのだろう。その光景に心を打たれつつ、ヒロは言う。
「それじゃ、俺は行ってくる」
今度こそ、ヨハネとの決着をつける時だ。