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ウィザーズ・イン・ザ・シティ  作者: やばくない奴
ヨハネ・ベネフォード
90/116

仲間

 二日後、逢魔(おうま)は再び医務室を訪れた。全身に深い傷を負っている彼の手には、一つの魔法石が握られている。これは、あの軍勢が使っていた量産型の魔法石――フラッシュキャノンだ。怪訝な顔をするヒロたちに対し、逢魔は得意気な笑みを見せる。

「先ほど、俺はウィザードの軍勢と戦ってきた。そして一つだけ手に入れてきたんだよ……魔法石をな」

 魔法石が無い限り、ウィザードは戦えない。それを理解していた彼は、たった一人で戦場に乗り込んできたということだ。

「ありがとう」

 ヒロは礼を言った。彼に続き、鈴菜(すずな)紅愛(くれあ)、そして天真(てんま)も礼を言う。

「流石ッスよ! 逢魔! 助かったッス!」

「ありがとな……逢魔」

「ありがとう。キミは本当に、ボクたちのことを想ってくれているんだね」

 今の彼らにとって、逢魔は頼もしい存在だ。しかし当の本人は、少しばかり不服そうな顔をしている。

「お前らのことを想ってる? 違うね……俺はただ、日向への復讐を遂げたいだけだ。ほら、誰でも良いから魔法石を持って、早くヨハネを倒してきなよ」

 そう返した逢魔は、目を逸らしながら己の後ろ髪を掻いていた。ヒロは微笑み、彼から魔法石を受け取る。

「俺は君たちを悲しませた。今度は、俺が君たちの希望になる」

 しかし、量産型の魔法石の持ちうる力は限られている。ましてやたった一人でその魔法石を使うのであれば、ヨハネを倒すことはあまり現実的ではないだろう。そこで逢魔は、ヒロに忠告する。

「なあ、ヒロ」

「どうした?」

「……死ぬんじゃねぇぞ」

 それは紛れもなく、彼自身の本心から出た言葉だった。ヒロは深く頷き、こう返す。

「君も、あまり無茶をするんじゃないぞ。俺も今は、君に死んで欲しくないと思っているから」

 かつて敵対していた相手から出てきた言葉は、逢魔にとっていささか衝撃的なものだった。

「まあ、俺は強いからな。貴重な戦力は、そりゃあ失いたくないだろ」

 逢魔はそう言ったが、それはヒロの意図したことではない。

「……確かにそれもあるかも知れないけど、それ以上に俺たちは、君を大切な仲間だと思っている。君たちもそうだろ?」

 屈託のない笑みを浮かべたヒロは、鈴菜の方へと振り向いた。彼に続くように、逢魔も同じ方向を見る。そしてヒロの質問に対し、鈴菜は満面の笑みで答える。

「もちろんッスよ! 逢魔はヴィランだけど、良い奴ッスよ! そうッスよね! 紅愛さん、天真さん!」

 嬉々とした声色をした彼女が目を向けた先には、紅愛と天真がいる。

「そうだな。オレも同感だ。逢魔も、アンタも、ヒロも天真も……誰一人として死なせたくはねぇ」

「ふふ……ボクは最初、ヴィランを仲間にするなんて正気じゃないと思っていたよ。だけど、今ボクたちの目の前にいるヴィランは、最高にイケてるじゃないか」

 何やら二人も、逢魔のことを仲間として大切にし始めていたようだ。そんな中で、逢魔は今までにない感情を抱きつつある。

「この気持ちはなんだ……? 俺はずっと、ヴィランとして生きてきて、誰かに感謝されたことなんか一度も無かった。晴香(はるか)千郷(ちさと)伊吹(いぶき)……お前らにも、この気持ちを味わわせてやりたいよ……」

 その感情の正体は、今の彼にはわからない。ただ一つ言えるのは、彼の中で何かが満たされたということだ。そんな彼の方へと歩み寄り、鈴菜は彼の肩を優しく叩く。

「仲間のこと、大切に想ってたんスね……逢魔」

「ああ、そりゃあな。それこそ、天真の言っていた『コイツには死なれたくない』ってヤツだよ」

「じゃあ、ウチらも死ぬわけにはいかねぇッスね。またアンタを悲しませるわけにはいかねぇッスから」

 日々が流れていくにつれて、五人の心は徐々に結束を固めていったのだろう。その光景に心を打たれつつ、ヒロは言う。

「それじゃ、俺は行ってくる」

 今度こそ、ヨハネとの決着をつける時だ。

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