先読み
翌朝、天真は医務室で目を覚ました。己の上体を起こすや否や、彼は酷く咳き込み始めた。その全身には、包帯が巻かれている。
「今は動くな。安静にした方が良い」
そう忠告したヒロは、深刻な表情をしていた。どのみち、魔法石が無いからには戦うことも出来ないだろう。天真は息を荒げつつ、再びベッドに横たわった。これで彼らは、全ての魔法石を奪われたことになる。彼と同じく包帯に身を包む紅愛は、深いため息をついた。そして彼女は、不安を口にする。
「このままじゃ、日本が負けちまうな……」
しかしヒロたちは、まだ完全に戦力を失ったわけではない。そこで名乗りを上げるのは、逢魔である。
「ウィザードが戦えば、相手に魔法石を奪われるわけか。だったら、ヴィランが戦えば良いじゃねぇかな」
そう――ヴィランは魔法石を用いずに戦える存在だ。四人のウィザードが力を失った今、彼一人だけが勝利の鍵を握っている。
「任せたぞ、逢魔」
ヒロは言った。その後に続くように、鈴菜、紅愛、天真の三人も逢魔を応援する。
「頼んだッスよ! 逢魔!」
「アンタだけが頼りだ」
「キミに……全てを託そう」
もはや後には引けない状況だ。逢魔は深く頷き、瞬間移動によってその場を去った。
街の跡地にて、彼はヨハネと対面した。両者は数秒程互いを睨み合い、そして一斉に変身する。直後、逢魔は相手の背後を取り、剛腕を前方に突き出した。強烈な右ストレートに殴り飛ばされたヨハネは、すぐに己の右手をハサミに変える。
「まずい……!」
咄嗟の判断により、逢魔は瞬間移動した。一先ず、標的から距離を取った彼は、あの衝撃波を一身に浴びずに済んだ。しかし相手は、同じ技を何度でも繰り返せる。一方で、逢魔にはこれといった飛び道具がない。
「どうすれば……奴に近づける……?」
眼前の敵を睨みつつ、彼は必死に思考を巡らせる。直後、その上空から、凄まじい火力の光線が降り注いだ。
「……!」
逢魔は一瞬だけ光線を浴びたが、瞬間移動によってその場を脱出した。しかし彼が移動した先に、更にもう一発の光線が放たれる。彼は何度も移動を繰り返したが、その先々で光線に狙撃されていった。この状況を前に、逢魔は全てを察する。
「そうか……紅愛の魔法石があるから、アイツは……俺の動きを読めるのか!」
アストロロギアの力により、彼の動きは常に先読みされているのだ。逢魔はすでに満身創痍になっており、肩で呼吸をしている有り様だ。一方で、ヨハネの表情は依然として余裕に満ちている。戦意を喪失した逢魔は、すぐに変身を解いた。しかし彼は、決してヒロたちを見捨てたわけではない。
「流石の日向も、今の日本を黙って見捨てるわけにはいかないだろ。次に動くのは、きっと……アイツだ」
そう考えた彼は、瞬間移動によってその場を去った。
*
その日の夕方、逢魔は医務室に戻ってきた。全身を酷く負傷している彼を見て、ヒロは全てを理解する。
「流石に、勝てなかったか……」
やはり今の彼らには、あの男を倒せるだけの力が無い。五人が無言でうつむく中、医務室にはアタッシュケースを携えた男が入室した。
「では君たちに、新しい魔法石を試してもらおう」
――日向だ。彼がアタッシュケースを開くと、そこには四つの魔法石がある。一先ず、ヒロ、鈴菜、紅愛の三人は魔法石を一つ手に取り、変身を試みた。
直後、凄まじい電流が彼らの身を襲った。
結局、三人は変身に失敗した。苦しそうに息を荒げるヒロたちに対し、天真は忠告する。
「今のボクたちのウィザードレベルでは、その魔法石は使えないみたいだね。無謀に命を投げるような真似だけは、絶対にしない方が良い」
強力な魔法石を使うには、それに見合ったウィザードレベルが要されるようだ。どのみち、今の彼らには勝機などなかった。