魔術を使いこなす者
その日の夕方、ヒロと鈴菜はいつもの公園に向かった。そこで彼らを待っていたのは、紅愛、天真、そして逢魔の三人である。一先ず、ヒロは深呼吸を挟み、それから先ほどの出来事を報告する。
「今日、俺と鈴菜がヨハネに襲われた。そして俺たちは、魔法石を奪われた」
魔法石が無ければ、ウィザードは戦うことが出来ない。戦う手段を奪われた二人は、虚ろな目をしていた。その全身が酷く負傷していることもあり、彼らは今まさに絶望の淵に立たされている。そんな二人に対し、天真は訊ねる。
「それで、ヨハネはどんな魔術を使ってきたんだい?」
その質問に答えるのは、あの男の力の正体を一早く見抜いていた鈴菜だ。
「アイツは、テッポウエビの力を使っていたッス。自分の右手をハサミに変えて、それを閉じることによって衝撃波を生み出していたッス!」
「なるほどね。少しばかり、厳しい戦いになりそうだね。だけど紅愛の光線銃なら、その力に打ち勝てるかも知れない。彼が光線を打ち消すより先に、光線の方が彼の身に風穴を開けることになるからね」
「それもそうッスね。アイツの相手は、皆に任せたッスよ! ウチらの魔法石も、取り返してきて欲しいッス!」
一先ず、鈴菜は後のことを仲間に託すことにした。
*
やがて空が黒く染まった頃、紅愛と天真は荒廃した街の跡地へと赴いた。二人は強敵の魔力を感じ取り、即座に変身する。そして同じ方角に向かって、紅愛は光線、天真は糸を放った。光線は糸に引火し、凄まじい火力の炎が飛んでいく。そして瓦礫の山が爆発した直後、そこから姿を現したのはヨハネだった。紅愛たちの先制攻撃により、彼はその体に致命傷を負っている。
「変身」
彼が変身するや否や、その体は瞬時に再生した。それからヨハネは己の右手をハサミに変え、衝撃波を生み出す。この一撃により、紅愛と天真は後方へと吹き飛ばされた。それから宙で体勢を整え、紅愛は言う。
「この衝撃波については、説明された通りだな。だが、アイツに再生能力まで備わっているなんて……まるで聞いてねぇぞ!」
少なくとも、これでヨハネの魔術が攻撃と回復を兼ねていることは明らかとなった。天真は肩で息をしつつ、推測を語る。
「そうだね。おそらく彼は、己の体を作り変える力を持っている。言い換えれば、奴はどんな生物の力も我が物に出来る――と言ったところだね」
「なんだよ、それ……反則的な強さじゃねぇか!」
「幸い、ボクには火種を作ることが出来るし、キミには光線を撃つことが出来る。奴を、火だるまにしよう」
まだ二人は、万策が尽きたわけではない。天真は瓦礫の海に糸を張り巡らせ、紅愛は火力の高い光線を放った。炎は一瞬にして燃え上がり、標的の身を容赦なく包み込んだ。しかし、相手は日向のお墨付きの強さを誇るウィザードだ。
突如、その場には滝のような豪雨が降り注ぎ、炎は一瞬にして消火された。
煙の中から姿を現したヨハネは、その左手に剣を携えていた。その刀身は、水の渦のようなものをまとっていた。天真はすぐに、その正体を見破る。
「クロス・セイバー……ヒロの魔法石だ! アイツ……手に入れたばかりの魔法石を早くも使いこなしている!」
無論、眼前の強敵が使いこなせるのはクロス・セイバーだけではない。直後、上空に星型の光が密集し、辺り一帯を光に包み込むほどの光線が放たれた。激しい爆発に巻き込まれた紅愛と天真は、爆炎をまといながら吹き飛んでいく。この爆発により、二人は変身を解かれ、瓦礫の山に叩きつけられてしまう。元から体が弱っていた天真は、すぐに気を失った。ヨハネは変身を解き、舌なめずりをする。
「今日だけで、魔法石が四個も手に入った」
そう呟いた彼は、紅愛たちからも魔法石を奪い取った。