軍事ビジネス
一方、とある大きな駅は、ウィザードの軍勢に占拠されていた。彼らは人質を取り、拡声器を通した声で警告する。
「すぐに魔法石を差し出せ! 例え一般市民だろうが、我々は容赦なく殺すつもりだ!」
人質を解放するには、彼らの脅しに屈するしかないだろう。この国のウィザードには、囚われた者たちを安全に救い出す方法はない。
そう――この国の「ウィザード」たちには、人質を傷つけずに戦う手段がないのだ。
そこでこの場に赴いたのは、元マリス団の幹部にして、ヒロたちの心強い味方――逢魔である。彼は瞬間移動を駆使し、人質を次々と遠い場所に避難させていった。これで敵対者の軍勢には、もう人質という交渉材料がない。唖然とするウィザードたちの視線を浴びつつ、逢魔は独り言を呟く。
「さぁて、暴れるか」
さっそく彼は竜型のヴィランに変身した。それから瞬間移動を繰り返し、彼は次々と標的たちを殴り飛ばしていく。敵は皆、フラッシュキャノンと呼ばれる量産型の魔法石を持っているが、それも逢魔にとっては脅威ではない。いくら凄まじい威力の光線が放たれても、彼はそれを瞬間移動でかわしてしまう。
「……コイツらは、殺して良いんだよな? これは、戦争だもんなァ!」
両目を発光させつつ、彼は叫んだ。それからの彼は凄かった。一人、また一人と、敵対するウィザードたちは次々と崩れ落ち、そして絶命していった。巧みな体術と瞬間移動を組み合わせ、逢魔は今まさに無双している。
やがて彼は、その場にいた軍勢を殲滅した。
「もう終わりか……つまらないな。帰るとするか」
そう言い残した彼は変身を解き、その場から消えた。
*
数日後、ヒロたちは社長室に召集された。彼らがここに呼ばれたということは、何か良からぬことの前兆だろう。
「今度は一体、何が起きようとしているんだ」
ヒロは訊ねた。彼の横で、三人のウィザードと一人のヴィランが眼前の「宿敵」を睨みつけている。日向はデスクの引き出しから一枚の写真を取り出し、それをヒロに手渡した。それから彼は、室内を歩き回りながら話を切り出す。
「その男はヨハネ・ベネフォード――海外のウィザードだ。今までの戦争で君たちが見てきたような、量産型のウィザードとはわけが違う。彼の使う魔法石もまた、凄まじい力を秘めている」
何やらヒロたちは、強敵と戦うこととなりそうだ。怒りを覚えた紅愛はすぐに飛び出し、日向の胸倉を掴む。
「どこまで人々を苦しめば気が済むんだ! アンタは!」
彼女の怒号は、社長室に響き渡った。それに一切動じることなく、日向は彼女の手首をひねる。その勢いで紅愛は床にねじ伏せられ、唖然とするばかりであった。変身していない状態でもなお、この男は強いようだ。その傍らで握り拳を震わせつつ、天真は問う。
「キミの目的はなんだ? 高円寺日向!」
「軍事ビジネスだ」
その返答に、彼の怒りは頂点に達する。
「軍事ビジネス……? ボクたちは、そんなことのために利用されてきたのか! そんなことのために、数多の命が犠牲になったのか!」
「ウィザードとヴィランを戦わせれば、戦闘の経験を積んだ『記憶』のパターンを入手できる。魔法石やウィザードの性能をテスト出来る上に、その性能を世間に知らしめることも出来る。そしてついに戦争が始まった今、私はこの技術を売りさばくことが出来るんだ」
「それでボクたちが死んだらどうなる! キミの私利私欲のせいで、日本は今、滅びそうになっているんだぞ!」
確かに、彼らが戦死すれば、もう国民を外敵から守れる者はいなくなるだろう。無論、日向とて、その危険性を無視しているわけではない。
「愚問だな。そのためのスワンプマンだろう。君たちが壊れても、新しい君たちが戦うだけだ」
そう語った彼は変身し、その場から姿を消した。