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崩れゆく街

 街の一角で悲劇が起きたのは、数日後のことだった。海外から何人ものウィザードが駆け付け、建物という建物を爆破し始めたのだ。彼らが使っている魔法石は、あの二人組が使っていたものと同じだ。どういうわけか、その服装にも差異はない。


 その上空には、一機のヘリコプターが飛行していた。そのヘリコプターを操縦しながら地上を見下ろしているのは、日向(ひゅうが)である。

「全ては筋書き通りに進行している。先ずは、量産型のウィザード及び、量産型の魔法石の性能のテストだ」

 案の定、この件には彼の存在が関与していた。様々な悪行を暴かれた彼には、もはや悪意を隠す必要などないらしい。



 一方、地上には天真(てんま)が赴いていた。彼は錠剤を飲み、よろけながらも体勢を整える。その呼吸は酷く荒れており、彼の病状がいかに深刻であるかを物語っている。炎上しながら崩れ落ちていくビル群を前に、天真は戦闘の構えを取る。そして全身にノイズを走らせつつ、彼は強引に変身を決行した。

「ここにいるウィザードは……五人か」

 さっそく、天真はその場に巨大な人形を生み出した。人形はその体から無数の糸を発射し、四方八方に散らばる五人のウィザードの方へと伸びていく。

「フラッシュキャノン、発射!」

 五人のうちの一人が、叫び声を上げた。直後、彼の掌からは眩い光線が放たれ、その目の前の糸の束を焼き落とした。残る四人も、迫りくる糸を次々と焼き払っていく。流石の天真の力をもってしても、五人のウィザードを相手にするのは骨が要るようだ。

「やれやれ、この人形は乱闘には向かないか。ならば、一人ずつ始末するしかないね」

 彼の人形は凄まじい力を有しているが、決して万能ではない。天真は人形を解き、その糸を周囲に張り巡らせた。これで辺り一帯は、彼のテリトリーになったようなものだ。しかし彼の敵対者たちは、火力の高い光線を放つことが出来る。無論、彼の糸は熱に弱く、その光線を浴びればすぐに焼け落ちてしまうだろう。


 しかし天真には考えがあった。


 彼が糸を飛ばすごとに、標的たちは光線を放っていった。周囲は砂煙に覆われ、彼らの視界は徐々におぼろげになっていく。当然、五人は天真の姿を見失うこととなるが、それだけではない。

「奴はどこだ!」

「むやみに喋るな! 空気を肺に溜めておけ!」

「は、はい!」

 爆炎と煙に包まれたこの場所では、新鮮な空気を得ることが出来ない。ゆえに彼らは、無駄な動きで体力を消耗するわけにもいかないのだ。


 一方で、ウィザードレベルの高い天真は、他のウィザードの魔力を感じ取ることが出来る。

「ここだ……!」

 彼は右腕を伸ばし、掌から糸を放った。敵のうちの一人が、その糸に巻き付かれる。

「うわっ!」

 糸の粘着力により、敵対者の衣服は高熱を帯びていく。しかし彼には、天真の姿を捉えることが出来ない。直後、敵対者は糸に締め付けられ、全身の骨を粉砕されてしまう。彼は口から血を流しつつ、変身解除と同時に絶命した。

「よし、先ずは一人の魔力が途絶えた」

 そう呟いた天真は、別の方向にも糸を飛ばした。相手の魔力を感じ取れるということは、相手の死を感じ取れるということでもあるようだ。

「くっ……!」

 もう一人、敵対者が糸の餌食になった。天真は更に三本の糸を飛ばし、その先端で残る三人の身も締め付ける。

「そんなっ……馬鹿な……」

「アイツ……我々が見えているのか!」

「もう、終わりだ……」

 三人は一斉に全身の骨を砕かれ、膝から崩れ落ちた。変身の解けた彼らに、もう息はない。


――天真の圧勝だ。


 彼は変身を解き、手で口を押さえながら咳き込んだ。それから彼が己の掌を見つめると、そこには鮮血がこびりついていた。


 天真の体調は、悪化の一途を辿っている。

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