表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/116

離れ離れの姉妹

 数日後、紅愛(くれあ)は閑静な並木道を歩いていた。その片手に握られた鯛焼きを頬張りつつ、彼女は心地よい風を感じている。しかしこの瞬間も、彼女は決して油断できない。

「戦争が収まるまでは、花凛(かりん)を連れては表を歩けねぇな」

 海外のウィザードがこちらに敵意を向けている今、彼女は妹と同行するべきではない。紅愛は携帯電話を取り出し、トークアプリを開いた。その一番上に表示されているのは、花凛とのダイレクトメッセージだ。

「お姉ちゃんはいつ帰ってくるの? 独りじゃつまらないし、かりん、寂しいよ」

 案の定、花凛は姉を恋しく思っていた。紅愛は己の後ろ髪を掻き、それから彼女に返信する。

「ごめんな。しばらくは、帰れそうにない。それより、今日の夕飯は何を送って欲しい? しばらく会えないし、ステーキでも良いぞ」

 この姉妹の仲は良好だが、それゆえに二人は離れ離れにならなければならない。ウィザードが奇襲を受け続けている以上、当面の間は彼女たちが再会することはないだろう。


 その時、紅愛の携帯電話から着信音が鳴り響いた。画面に表示された「高円寺日向(こうえんじひゅうが)」の文字を前にして、彼女は眉間に皺を寄せた。一先ず、紅愛は電話に出ることにする。

「今度はなんの用だ! 今度は、オレたちを何に巻き込むつもりだ!」

 それが彼女の第一声だった。あの男が様々な問題を引き起こした以上、彼女が憤るのも必然である。そんな彼女を煽るように、日向は話を始める。

「おやおや……私もずいぶんと嫌われたものだな。君が奇襲を受けないように、有益な情報を掴んだというのに」

「有益な情報……?」

「今から送るショートメッセージに、位置情報が記載されている。そこには海外から来た――二人組のウィザードがいる。もちろん、奴らは君の敵だよ」

 その情報を頼りにすれば、紅愛はあの二人組に先制攻撃を仕掛けることが出来る。しかし、それで彼女の怒りが収まるわけでもない。

「ああ、そうかい!」

 そう返した紅愛は、すぐに通話を切った。それから彼女はショートメッセージを確認し、駆け足でその場を去った。



 彼女がたどり着いたのは、大きな湾をまたぐ橋だ。彼女は柱の陰に身を潜め、神経を研ぎ澄ます。それから彼女は変身し、光線銃のトリガーを引いた。火力の高い光線が放たれた先には、二人の男がいる。

「……!」

 その内の一人が、脇腹を撃ち貫かれた。彼ともう一人はすぐに変身し、標的の隠れている柱をめがけて光線を放つ。その動きを読んでいた紅愛はすぐに飛び出し、二人の放った光線をかわした。

「ちっ……やはりあの距離からじゃ、急所は射貫けねぇか」

 あくまでも、彼女の魔術は、相手の動きを読む力しか持っていない。その魔術は決して、彼女の狙撃の精度を保証するものではない。紅愛と男たちは互いを睨み合い、光線を連射していった。相手の動きを読める分、彼女は優位に立っている。しかし彼女が真に得意としているのは、近接戦闘だ。前方から迫る光をかわしつつ、紅愛は駆け足で間合いを詰めていった。

「なんだアイツ……我々の動きを完全に読んでマス!」

「このままじゃ、マズいデスネェ!」

 命の危機を感じた男たちは、一心不乱に光線を撃ち続けた。直後、紅愛はその場から高く跳躍し、男のうちの一人に強烈なドロップキックをお見舞いした。その爪先に魔力を籠められた蹴りは、その場に大爆発を起こす。その爆炎には、もう一方の男も巻き込まれた。変身の解けた状態で吹き飛ぶ二人を睨み、紅愛は二発ほど発砲する。その銃口から放たれた光線は、彼らの心臓を貫いた。意識を失った男たちは、そのまま湾の水面に叩きつけられる。そんな二人に背を向け、紅愛は光線銃の銃口に息を吹きかけた。

「始末完了……だな」

 そう呟いた彼女は変身を解き、その場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ