守る理由
あの後、鈴菜はいつもの公園に赴いた。そこで彼女を待っていたのは、前にも集まった四人だ。一先ず、彼女は先ほどあったことを報告する。
「ウチもさっき、二人組のウィザードに襲われたッス! 連中を変身解除に追い込んだ後、和解を持ち掛けたんスけど、断られたッス!」
やはり彼女たちは、あの二人組と戦う運命にあるのだろう。どちらかの陣営が全滅するまで、この戦いが終わることはなさそうだ。ヒロ、紅愛、天真の三人は、この件について意見を出す。
「日向は、ウィザードを用いた戦争が始まったと言っていた。もはや正しいことだけに魔術を使おうだとか、そんな次元の話ではないのかもな」
「ああ、そうだろうな。これが戦争の幕開けだと言うのなら、オレたちは戦争を仕掛けられたということだ。戦争に正義なんかねぇが、オレたちは戦うしかねぇ」
「そうだね。ボクたちが相手を殺さない限り、日本が負けるのも時間の問題だ。侵略行為に手を打つのであれば、相手の生死は問わない。いや、相手を生かしておく余裕など、ボクたちにはないだろうね」
そう――これは戦争だ。彼らにはもう、正義の味方を続けられる猶予など残されていない。
「これが前に言っていた……己の身を守る目的での殺生かい?」
逢魔は訊ねた。ヒロは小さく頷き、彼と話をする。
「ああ。少なくとも俺は、日本を守るためならば仕方がないと思っている。そして、己の身を守るためにも。逢魔……君がこの国をどう思っているかは知らないけど、君も大切な命の一つだ。君だって、自分の身を守っても良い」
「ああ、守るさ。それが日向の思惑通りだと考えると、虫唾が走るけどな。それよりヒロ……お前はどうして、この国のためなんかに戦えるんだ? お前は身勝手な理由で作られて、身勝手な理由で捨てられたんだろ? お前は何故、そんな世界を愛せるんだ?」
「俺は沙耶を愛している。そして、君たちを仲間だと思っている。それだけで、この国のために戦う理由としては十分だ」
そんな想いを語ったヒロは、確固たる熱意を秘めた眼差しをしていた。その想いは、今の逢魔に理解できるものではない。
「俺にはわからないね。誰かを大事に思えることが、この世の理不尽を許す心に繋がるという理屈なんか」
「理屈なんかじゃない。憎しみがはびこる世界でも、人々が傷つけ合う世界でも、俺たちは心を一つに出来た。孤独から解放された今だからこそ、俺にはこの世界の価値がわかる。世界は愛を作った。人間は愛を育んできた。本当に、素晴らしいことだと思う」
「……そうかい。今の俺には、お前が何を言っているのか……まるで理解できないね。だけど……お前たちと行動を共にしていけば、いずれはわかるようになるかもな!」
そんな希望を胸に抱きつつ、彼は歯を見せて笑った。それにつられるように、ヒロの口元からも笑みが零れる。この光景を前にして、紅愛は話に加わる。
「なあ、逢魔。これが、アンタの望んでいたものなんじゃねぇのか?」
「俺の望んでいたもの? なんの話だ?」
「今のアンタとヒロは、まるで友達同士みてぇじゃねぇか。鏡があったら見せつけてやりてぇくらいだ。今のアンタの、満面の笑みを」
友達――それは逢魔にとって、考えたこともないものだった。彼は首を傾げ、ただ唖然とするばかりだ。そんな彼に微笑みかけ、天真も言う。
「逢魔。キミはいずれ、ヒロに生きていて欲しいと考えるようになるだろうね。たった一人だけでも良い――『コイツには死なれたくない』と思える人がいれば、生きることは上等だよ」
その言葉に何かを感じた逢魔は、曇った表情でうつむいた。
「晴香、千郷、伊吹……お前らのいない世界は、調子が狂いそうだよ」
この時になって、彼はようやく仲間の尊さを実感していた。