救われた命
翌日、学校帰りの鈴菜は、駅前の広場にあるベンチに腰を降ろしていた。彼女は一枚のプリント写真を見つめ、感傷に耽っている。
「晴香……ウチらは、ずっと……親友ッスよ」
そんな独り言を呟いた彼女は、目から涙を流していた。彼女は二度も親友を失った。それでも彼女は、まだ独りになったわけではない。
「これ以上、何も失いたくねぇッス。ヒロさん、紅愛さん、天真さん……そして、逢魔。絶対に、ウチを置いていなくなるんじゃねぇッスよ」
そう――彼女には仲間がいる。しかしあの四人を失えば、今度こそ彼女は立ち直れないだろう。その上、今の彼女を取り巻く環境は劣悪だ。
――日本は今、戦争に巻き込まれている。
突如、鈴菜は眩い光に襲われた。その身を焼かれつつ、彼女は咄嗟に変身した。先ほどまで悲哀に満ちていた眼差しには、純然たる闘志が宿っている。
「勝負ッスか? 受けて立つッスよ!」
数々の戦いを生き延びてきた彼女は、もうあの頃とは違う。彼女は二人分の魔力を感じ取り、星型の光を連射した。光の弾丸は鋭利なカーブを描き、近くのビルの陰へと飛び込む。直後、彼女の狙撃した場所は勢いよく爆発した。物陰から姿を現したのは、全身に火傷を負った二人のウィザードだ。
「昨日とは違うウィザードだネェ。日本はすでに、何人かのウィザードを所有しているみたいデスネェ」
「こちらも量産型の魔法石で戦い続けるのは難しいのでネ……アナタの魔法石、いただきますヨ!」
片言の日本語を話した二人は、凄まじい火力の光線を連射した。鈴菜も己の手元に星型の光を集め、それから更に大きな光線を放つ。三つの光線は火花を散らしながらぶつかり合い、互いを押し合っていく。
「力比べッスね……負けねぇッスよ!」
無論、これは二対一の戦いだ。ここで鈴菜が負ければ、彼女は二本の光線を一身に浴びることになるだろう。命の危険を肌身に感じつつ、彼女は額から汗を流していた。ここで彼女の脳裏に、梓の言葉がよぎる。
「鈴菜が生きることを望んでいる人がいる」
「鈴菜のことを第一に思っている――鈴菜の大切な友達が」
続いて、彼女は自分が晴香に救われた時のことを思い出した。晴香は歯を食い縛り、数多の想いを噛みしめる。
「晴香は……ヴィランの本能に抗ってまで、生まれ持った呪いを跳ねのけてまでウチを助けてくれたッス!」
その時、彼女の放っている光線は、敵対者の光線をじわじわと押し始めた。
「一体、何が起きているのデス?」
「このままでは、マズいデスネェ!」
男たちは目を疑った。先ほどまでほぼ互角だった戦力差は、明らかに開き始めていた。両手に魔力を注ぎつつ、晴香は叫ぶ。
「晴香が救ってくれた命を、ここで失うわけにはいかねぇッス!」
その大声が響き渡ったのと同時に、辺りは眩い光に包まれた。彼女と敵対する男たちは爆発に呑まれ、変身の解けた状態で地面を転がった。
――鈴菜の勝利だ。
彼女は息を荒げつつ、彼らに続くように変身を解いた。その目には、もう闘志など宿っていなかった。
「ウチらはきっと、話し合えばわかり合えるはずッス。ヴィランとして生まれた者のうち、二人はウチとわかり合えたんスよ?」
そう呟いた彼女は、男たちに手を差し伸べた。しかし、男のうちの一人はその手を振り払い、もう一方は中指を突き立てた。
「これで終わったと思わないことデスね!」
「デスが今日のところは、このくらいにしておきマス!」
そんな捨て台詞を吐き、二人はよろけながら立ち上がった。それから彼らは鈴菜に背を向け、駆け足でその場を去っていった。
そんな彼らの背中を見送り、鈴菜はため息をつく。
「はぁ……これも、日向の望んだことなんスかね……」
そう呟いた彼女は、虚ろな目で己の足下を見つめていた。