海外からの刺客
数日後、ヒロはいつものように街を歩いていた。歩みを進めつつ、彼は何か考え事をしている。
「どうすれば……日向を倒せるんだろうか……」
かつては日向を信じていた彼も、今は日向を敵視している。己の人生に意味を与えてくれた人間が、実は最大の敵だった――その事実は、彼を怒らせるには十分すぎたのだ。数多の感情が入り交じり、ヒロを苛んでいく。しかし、今この瞬間も、彼は決して油断できない。
突如、彼は背後から、眩い光のようなものを浴びた。
その身を炎に焼かれつつ、ヒロはアスファルトに転がった。彼が顔を上げると、その視線の先には二人の男がいた。男たちは魔法石を首から下げており、同じ衣装に身を包んでいる。その顔立ちから具体的な国籍は断定できないが、少なくとも彼らは日本人ではない。
「君たちは……一体……?」
すぐに立ち上がったヒロは、状況を呑み込めないまま変身した。彼は手元に剣を生成し、二人組の方へ駆け寄ろうとする。しかし男たちは何度も光を放ち、彼の身を焼いていく。この戦いを近接戦闘に持ち込むには、少々骨が折れるだろう。
「コイツから魔法石を奪ったら、祖国に技術が渡りますネェ!」
「日本は戦争をしないと聞いていたけど、これは良い軍事力になりマァス!」
何やら彼らは、海外から来た刺客らしい。そんな二人を睨みつつ、ヒロは剣の刀身に炎をまとわせた。
「日本も、自衛力を持つことは許されているからな」
そう言い放った彼が剣を振り始めるや否や、その刀身からは円弧を描く炎が何発も放たれた。灼熱の炎は火力を増しながら飛んでいき、眼前のウィザードたちを呑み込む。そして最後に飛んできた巨大な炎は、彼らを巻き込むや否や爆発した。これにより変身の解けた二人は、死を覚悟した。一方で、ヒロは無益な殺生を好まない性分である。
「さあ、これで力の差はわかったはずだ。もう二度と、俺に挑まない方が良い」
海外からの刺客たちに背を向け、彼はその場を後にした。
*
数時間後、ヒロはいつもの公園に赴き、そこに鈴菜たちを集めた。その場には、つい数日前に仲間に加わった逢魔も居合わせていた。さっそく、彼は先ほどあった出来事を打ち明ける。
「先ほど、俺は海外から来たウィザードの二人組に襲われた。大した脅威にはならなそうだったし、殺さずに逃がしたが……いずれにせよ、これは何か悪いことの前兆だと思って良いだろう」
今まで、海外からウィザードが来るようなことはなかった。ましてや、そのウィザードが別のウィザードを襲うようなことなど無かったはずである。かつてない異常事態を耳にした鈴菜は、耳を疑うばかりである。
「一体、何が起きようとしてるんスか! ヴィランと戦った次は、ウィザードと戦わねぇといけねぇんスか? ウチらは、一体なんのために戦わされてきたんスか! 梓はなんのために死んで、晴香はなんのためにヴィランとして生まれたんスか……」
彼女が取り乱したのも無理はない。次々と押し寄せる悲劇に苛まれてきた彼女は、もう冷静ではいられないだろう。その傍らで紅愛は握り拳を震わせ、天真は虚ろな目でうつむいていた。そんな中でも、逢魔だけは強気だ。
「アイツを……日向を倒せば、全てが片付く。やはり、アイツを倒すしかないね」
ある意味、彼は日向の一番の被害者だ。
「ああ、そうだな」
彼の意見に賛同し、ヒロは頷いた。
その時、彼らの目の前に、一人の男が現れた。
「君たちに、ニュースを届けに来た」
――日向だ。当然、彼はその場に姿を見せるや否や、敵意を帯びた視線を浴びた。無論、彼はそんなことを気にする男ではない。邪悪な笑みを浮かべつつ、日向は語る。
「始まったのだ……ウィザードを用いた戦争がね。君たちは、この国を守らなければならない」