ご挨拶
その翌日、マリス団の四人はテクノマギア社の社屋へと向かった。逢魔は憎悪の籠もった目でエントランスを見つめ、千郷に指示を出す。
「派手にやっちまいな、千郷。先ずは『ご挨拶』からだ」
「ああ、そうだな」
千郷は己の手元に爆弾を生み出し、それを扉に投げつけた。扉の破片が勢いよく飛び散り、エントランスは煙に包まれる。直後、煙の中に人陰が見え始めた。その場に現れたのは、全ての元凶に等しき男――
「ふっ……とんだご挨拶だな」
――高円寺日向である。彼は変身するや否や、一瞬にして逢魔たちの後ろに移動した。四人のヴィランたちは、いつの間にか腹から血を噴き出している。
「どういうことだ! これは……!」
逢魔が驚いたのも無理はない。これが単なる瞬間移動であれば、彼にも出来ることだ。しかし、日向が移動した途端、彼らは見に覚えのない傷を負ったのだ。一先ず、逢魔たちも変身した。これから、彼らは日向と戦うことになる。
晴香はすぐに再生し、宿敵の方へと振り向いた。
「何をしたかはわからないけど、アナタの攻撃は無意味よ。ワタシを生み出したアナタなら、その意味はわかるはずよ」
「それはどうかねぇ。では手始めに、君から『処分』してやろう」
「ワタシは、負けない!」
未知の力を持つウィザードを前にしてもなお、彼女は強気だ。晴香は俊敏に動き回り、巧みに体術を駆使した。しかし、彼女の拳や蹴りが標的に命中する様子はない。
「どうした? その程度か!」
不敵な笑みを浮かべつつ、日向は瞬間移動のような動きを繰り返す。無論、ここで引き下がる晴香ではない。
「ワタシは、ここで全てに決着をつけないといけない。それから普通の女の子になって、ワタシは鈴菜に『ありがとう』って言うの!」
「叶うと良いな……その願い」
「絶対に叶えるわ! ワタシは、鈴菜の親友だから!」
そう――彼女はヴィランの本能に縛られているが、それ以上に強い想いを鈴菜に向けている。もっとも、その想いも圧倒的な力を前にすれば無意味だ。
突如、晴香の体は勢いよく爆発した。
変身の解けた彼女は地面を転がり、徐々に無数の光の粒子と化していく。
「鈴菜と話したいことが、まだたくさんあったのに……」
そう言い残した彼女は、この世から消滅した。
無論、これで戦いが終わったわけではない。日向の眼前に、大きな爆弾が迫ってきた。彼と爆弾が姿を消したのはその直後だ。不審に思った千郷が頭上を見上げると、そこには先程の爆弾があった。
「まずい……!」
彼女が叫んだ時には、何もかもが遅かった。激しい爆発に呑まれ、千郷は宙に飛ばされる。その上、彼女の全身は見えない力によって切り刻まれ、凄まじい勢いで出血していった。
「馬鹿な……こんなことが、あってたまるか!」
再び声を張り上げた千郷の身に、今度は大きな切り傷が刻まれる。彼女は眩く発光し、勢いよく爆発した。千郷も人間の形態に戻り、その場から消滅する。残る幹部は、後二人だ。いつの間にかその場に戻ってきた日向を睨み、伊吹は言う。
「なるほど、大した力だな。だが、俺様に敵うかな?」
さっそく彼は、相手の身を浮遊させた。しかし日向は空中で姿を消し、伊吹の目の前に現れる。その手に握られている刀は、すでに返り血に染まっていた。
「何っ……!」
この瞬間、伊吹は己の胴体が一刀両断されていることに気づいた。晴香や千郷と同様、彼の身も勢いよく爆発する。それから変身を解除された彼が消滅していくのを確認し、日向は辺りを見回した。
残る一人は、逢魔だ。
無論、彼は自分の仲間たちが惨敗していく様を目の当たりにした身の上である。そんな彼に勝機がないことは、彼自身もよく理解しているだろう。
「この借りは、必ず返す……」
そんな捨て台詞を吐いた逢魔は、瞬間移動によってその場を去った。