逢魔の怒り
その日の夜、マリス団の幹部たちは廃墟の倉庫に集まった。そこは彼らの拠点であり、彼らがいつも集まる場所だ。しかし、空気感だけは明らかにいつもと違う。神妙な空気が立ち込める中、逢魔は情報を整理し始める。
「ヒロが言っていた通り、俺たちはスワンプマンだ。つまり、唯一あの技術を持つ高円寺日向が俺たちを複製した。そして今日、ヒロと鈴菜、そして紅愛の三人は、天真と俺たちを置き去りにして社屋の中へと突き進んでいった」
その話に、晴香と伊吹は真剣に聞き入っていた。一方で、千郷は頬杖をつき、気怠そうな表情をしている。そんな彼女に構うことなく、逢魔は話を続ける。
「おそらく、ウィザードどもは今、高円寺日向と敵対している。そして俺たちが奴の魔術を把握していない以上、奴には俺たちを殺す好機がいくらでもあったはずだ。じゃあ何故、奴は俺たちを泳がせているのか……もう、答えは見えてきたんじゃないか?」
彼の語った事柄の数々が、晴香と伊吹の思考を研ぎ澄ましていく。ここまでの情報が出揃った今、二人の中で全てが繋がったのだ。
「つまり、日向は秘密裏にヴィランという脅威を生み出し、それを取り払えるウィザードを使ったビジネスをしている……ということね」
「いわゆる、マッチポンプ商法ってところか」
仮に逢魔の推測が正しければ、全ては日向の思惑通りに進んでいたということになる。それはヴィランたちが文字通りの悪役として生み出され、利益を生むための礎とされてきたことを意味している。
握り拳を震わせ、逢魔は静かな怒りを露わにする。
「……結局、俺たちはずっと利用されてきたんだ。奇しくも、俺たちとヒロたちには、共通の敵がいたということだな」
この時、彼は必死に感情を抑え込んでいた。彼がここまでの怒りを抱えたのは、おそらく初めてのことだろう。しかし、そんな時でさえ、千郷はいつも通りだ。彼女はテーブルに足を乗せ、大声を張り上げる。
「で? それがどうした! アタイたちが利用されていようが、あの男がどんなクソ野郎だろうが、アタイの知ったことじゃねぇ! 誰でも良いからブチ殺す……ただそれだけだ!」
どんな状況下であれ、千郷に標的の優先順位はない。彼女はただ、己の苛立ちをぶつける相手さえ見いだせればそれで良いらしい。そこで、逢魔は彼女に提案する。
「だったら、その殺す相手は高円寺日向でも良い――ということだな。善は急げだ……明日の昼、テクノマギア社に乗り込むぞ」
「そうか、それは面白そうだな。復讐なんぞに興味はないが、面白い戦いになりそうだ」
「ああ、面白いゲームになるだろうね。俺たちは誰かを苦しめないと生きていけない。俺たちは、普通に生きていくことが出来ない。全ては、あの男のせいだ! だが、アイツは明日、俺たちの手によって殺されるんだ!」
ついに彼の感情は爆発した。そんな彼を落ち着かせようと、晴香は咄嗟に口を挟む。
「待って、逢魔。ワタシたちは、不可解な現象を何度も目の当たりにしてきた。そしてワタシたちは、まだその正体を知らない。もう少し、ちゃんと調べてからの方が……」
「その必要はない! 今の俺たちが束になれば、たった一人の人間を殺すくらい……!」
「落ち着いてよ、逢魔! おそらく今のままじゃ、アイツはいつでもワタシたちを殺せるはずよ!」
その言い分はもっともだ。相手の手の内がわかってない以上、下手に行動を起こすことは命取りとなるだろう。
しかし、日向の手の内を知る手段があるとすれば、それもまた危険性を伴うものである。
伊吹は深いため息をつき、話に加わる。
「だが、実際に戦ってみないからには、奴の手の内はわからないだろう」
「そうだよな、伊吹。これで決まりだ。明日の昼、叛逆を決行だ!」
明日、マリス団の幹部たちは、いよいよ日向と戦うことになる。