読めたはずの動き
一方、ヒロ、鈴菜、紅愛の三人は、社長室に赴いていた。彼らが睨みつけている相手は、テクノマギア社の社長――高円寺日向だ。彼らの目に宿る感情はただ一つである。それは恨みだ。
「……変身」
「変身!」
「変身!」
もはや対話など無意味だと判断したのか、三人はすぐに変身した。日向は気怠そうに立ち上がり、同じく変身する。不可解な現象が起きたのは、その直後だ。
いつの間にか、ヒロの腹部にはいくつもの切り傷が刻まれていた。痛みに悶える彼が周囲に目を配ると、鈴菜と紅愛も重傷を負っている。
「一体……何が起きたんスか!」
「日向! どこに消えた! 姿を現せ!」
妙な出来事を目の当たりにしてもなお、彼女たちは好戦的だ。その後も、三人の体には次々と刺し傷や切り傷が刻まれていった。僅かな抵抗も許されない中、ヒロたちの体にはノイズが走り始める。圧倒的な力量差を前にして、彼らは狐に抓まれたような表情を浮かべるばかりだ。電流を帯びた剣を構えつつ、ヒロは呟く。
「日向も、瞬間移動を使えるのか? それにしても、攻撃そのものが見えないなんて……妙だな」
彼は再び社長室を見渡したが、手掛かりと思しきものは見当たらなかった。そんな中、紅愛は衝撃的な事実を口にする。
「オレが日向の動きを読んだ時、アイツはただゆっくりと歩き、そしてオレたちに斬撃を食らわせようとしていた。あんな攻撃、本来のオレなら避けられるはずだが、何かがおかしいんだ」
それはにわかには信じ難い話だった。
「どういうことだ……一体、何が起きている!」
ヒロは叫んだ。直後、彼は背中から勢いよく出血し、変身を解かれてしまう。彼に続き、鈴菜と紅愛も、正体不明の力によって脇腹を斬りつけられた。これにより彼女たちも変身を解除され、膝から崩れ落ちた。紅愛は息を荒らげつつ、話を続ける。
「オレの読んだ動きを、アイツは一瞬にして終えているようだった。だがオレの体は、オレの読んだ通りの部位に傷を負ったんだ。おそらく……日向の奴は……」
この時、彼女は何かに勘付きつつあった。
その頃、日向は社屋のエントランスにいた。彼の目の前では今、天真がマリス団の四人と向き合っている。無論、あの強敵たちの相手をたった一人で引き受けるのは、横車を押すようなものだろう。すでに変身の解けている天真は、その体にノイズを走らせながら立ち上がる。
「まだだ……ボクはまだ、戦える!」
そう叫んだ彼は、強引に変身を試みた。直後、彼は凄まじい電流に全身を襲われ、勢いよく吐血してしまう。それから力尽きた彼は、その場に崩れ落ちた。このままでは、彼に命はないだろう。そんな彼を見下ろしつつ、逢魔は呟く。
「これで一人、ウィザードを仕留められるね」
それに続くように、晴香と千郷も口を開く。
「元々、天真の体は弱っていたものね。これはチャンスよ」
「トドメはアタイが刺す。テメェらは手出しするなよ?」
ヴィランの血が流れているだけのことはあり、幹部たちに容赦はない。そんな中、伊吹はある違和感に気づく。
「待て。何か、妙な魔力を感じないか?」
その一言に、逢魔たちの表情が一変した。彼らはすぐに、エントランスの方へと目を遣った。しかし、そこにはもう誰もいない。続いて、四人は再び天真に目を向けようとした。しかし彼らが辺りを見回しても、そこに彼の姿は無かった。
逢魔は生唾を呑み、現状の整理を試みる。
「アイツ、消えたぞ? アイツだけじゃない……『もう一人』もだ。こんなことが起きたのは、今回だけじゃない。俺たちは、何度も同じ光景を目にしてきたはずだ!」
そう――マリス団が復活した後、彼らはこの現象を目の当たりにしてきた。動揺する気持ちを押し殺しつつ、逢魔は幹部たちに指示を出す。
「今すぐ引き返すぞ……今夜は会議だ」