反動
数時間後、天真はテクノマギア社の社屋にある医務室で目を覚ました。
「気がついたみたいだな」
ヒロは言った。彼の横には、鈴菜と紅愛もいる。天真は酷く咳き込み、ベッドから起き上がろうとした。しかし彼はよろけてしまい、近くの壁に手を突いた。
見かねた鈴菜は、必死に彼を止めようとする。
「今は安静にすべきッスよ、天真さん! ベッドに戻るッス!」
「キミたちには関係ない。ボクには、倒さなければならない相手がいる。第一、キミたちにボクを助ける義理なんかないはずだ!」
「天真さんは、一体何と戦ってきたんスか! 金のためだろうと、名声のためだろうと、そんな無理をしてまで戦うなんて絶対におかしいッス!」
確かに、天真の執念は異常だ。彼には何か、並々ならぬ事情があるのだろう。その核心に迫る質問を投げるのは、紅愛だ。
「ウィザードは自分一人で良い――と言っていたな。そしてアンタは、社長のことを敵視していた。まるで、すでに社長の本性を知っていたかのようにな。単刀直入に訊くぞ。アンタは一体、何を知っている?」
もはや天真は、言い逃れの出来ない状況にまで追い込まれた。彼はベッドに腰を降ろし、ウィザードに隠された真実を明かす。
「ウィザードの魔術には反動が伴う。ボクたちは魔術を使う毎に、その体に相応の負担をかけている。このまま戦いを続ければ、キミたちもボクと同じ末路を辿ることになる」
無論、ヒロたちはそんな話を信じたくはなかった。しかし日に日に病状が悪化している天真の存在は、彼自身の証言に妙な説得力を与えている。紅愛は怒りのあまり、近くの壁を殴る。
「社長は、そんな重要なことを黙っていたのか! それじゃ、天真……アンタがオレたちから魔法石を奪おうとしてきたのも……」
「そういうことになるね。ボクにはもう失うものがない。死ぬのはボク一人で良い。キミたちは全てを忘れて、一般人として生きていくと良い」
「もう無理だ。ここまで色んなことに巻き込まれて、オレたちが今更引き下がれるわけがねぇだろ! そうだよな! ヒロ、鈴菜!」
同意を求めた彼女は、ヒロたちの方に目を遣った。無論、二人の答えは決まっている。
「ああ、死ぬ覚悟はいつでも出来ている」
「ウチは……死ぬのは嫌だけど、それを誰か一人に背負わせるよりはましッスよ!」
もはやヒロたちに、天真の説得は通じないだろう。紅愛は強気な笑みを浮かべ、天真の横に腰を降ろす。
「オレは生半可な覚悟でウィザードになったわけじゃねぇ。ヒロと鈴菜だってそうだ。それに、オレたちは何かを失ってばかりかも知れないが、それ以上に得られたものもある。どんな理不尽な運命に弄ばれても、オレはコイツらとなら戦える」
それは紛れもなく、純然たる覚悟であった。彼女一人だけではない――ここにいる全員がその覚悟を背負っている。天真は肩をすくめ、ため息をつく。
「やれやれ。どうやらキミたちを止めても、無意味みたいだね。まあ、良いだろう。これからのボクたちは、仲間だ」
ついにこの時が来た。ついに、彼はヒロたちと結託したのだ。
「ああ、仲間だ」
「おっす! よろしくッス! 天真さん!」
「よろしくな……天真」
それは彼らにとって、大きな一歩となっただろう。そして今の「四人」には、共通の敵がいる。
さっそく、ヒロは先日の出来事について話す。
「ついこの間、高円寺日向はヴィランショットを――ヴィランを生み出す注射器を使っていた。マリス団を生み出したのも、最初にヴィランを生み出したのも、おそらくはあの人だ」
その推測がどこまで正しいのかは定かではない。ただ一つだけ明らかなのは、彼らの一番の敵が日向であるということだ。
そこで天真は提案する。
「一週間後、ボクたちは日向を倒す。それまでに、準備を進めておこう」
この日、彼らの心は一つとなった。