デモ隊
翌日を境に、日向がスワンプマンを作っていたことは、日本全国で報じられるようになった。大手SNSでは、不特定多数の匿名ユーザーが問題提起をしている。
「人間は消耗品じゃない。亡くなった人間を複製し、元の人物の代替品にすることは、オリジナルもスワンプマンも冒涜している」
「ヴィランと戦っていた陰で、高円寺日向はあんな非人道的なことをしていたのか」
「高円寺日向のしたことは、絶対に許されない。人権とは何か、我々はそれを今一度考え直す必要がある」
概ね、彼を話題にした者たちの声は「批判」であった。新聞には、大きな見出しで「テクノマギア社社長、人間を複製」と書かれており、記者も日向のことを強い口調で非難している。
そして今この瞬間も、ワイドショーに出演する芸能人たちが各々の意見を口にしている。
「これはねぇ、あってはならないことだと思うんだよね。死んだ人間のコピー品を生み出しても、その元となった人間が生き返るわけじゃないじゃないですか。これは遺された人の自己満足ですよ」
「信じられないです。あの高円寺社長が、命をあんなに軽く見ていたなんて」
「だからあの人は、ヴィランを殺すことにも抵抗がないんですよ。そりゃあ、ヴィランは殺さないといけないにしても、普通は躊躇うことじゃないですか」
もはや、日向の社会的信用は地の底だ。
「しかし、これからも我々は、あの人に税金を納めないといけないんですよ。ヴィランがいる限り、我々の生活は守られませんから」
「国があの人を社長の座から降ろして、別のウィザードの方に社長を務めてもらえば良いんですよ! 我々にはもう、あの人は必要ありません!」
「そうですよ。あんな技術が使われたという事実を、黙って見過ごすわけにはいかないじゃないですか!」
芸能人も、一般市民も、日向の所業に怒り心頭である。このまま事が運べば、彼は業界から干されることとなるだろう。
その頃、テクノマギア社の社屋はプラカードを掲げたデモ隊に囲まれていた。人々の怒鳴り声は重なり合い、半ば雑音と化している。
「クローン技術の使用は法的に禁止されていますよね! スワンプマンだったら良いと思ったんですか!」
「法に反していなければ、身勝手な都合でスワンプマンを作っても良いんですか!」
「お答えください! 高円寺社長!」
無論、この光景も生中継されており、アナウンサーは人混みに巻き込まれながら声を張り上げる。
「凄い人混みです! やはり高円寺社長は、それだけのことをしたのでしょう! 現場からは、以上になります!」
この状況下では、報道を続けることも難しいだろう。カメラマンは撮影を止め、アナウンサーは人混みを掻き分けながらその場を去った。
この光景を、遠くから眺めていた者たちがいる。ヒロと鈴菜、そして紅愛の三人だ。
「上手くいきそうだな。少なくとも、これで逢魔も俺の話を信じてくれるだろう」
「そうッスね。それに、あの社長にも一矢を報いられたッス! それにしても、社長が全ての元凶だったなんて……信じられねぇッス」
「ところで、スワンプマンの技術は元々、極秘だったんだろ? そして、その技術は社長が握っていたわけだ。そうなると、マリス団の連中のスワンプマンを作ったのも……」
紅愛の推測に、ヒロと鈴菜の表情は一変する。
「……俺は、あの人を尊敬していた。俺に人生を与えてくれたあの人を、俺は恩人だと思っていた。だけど、社長は俺を生み出した張本人で……もしかしたら、金のためにヴィランとウィザードを作っている可能性すらあるのか」
「ヒロさん、紅愛さん。これも、もう少し調べた方が良さそうッスね。マリス団、天真、そして社長……ウチらには、敵が多すぎるッスよ」
三人の体に、不吉な風が吹きつけた。