存在意義
そして現在――四人のウィザードが医務室に集まっている。ヒロの過去を知った鈴菜は、憤っている様子だ。
「そんなこと、どうしてずっと独りで抱えてきたんスか! ウチらは仲間じゃねぇんスか!」
そう叫んだ彼女は、ヒロの胸に飛び込んだ。
「鈴菜……?」
「ヒロさん……今は、自分に胸を張れてるんスか? 今はもう、自分が必要とされていないだなんて、思ってねぇッスよね?」
「……どうだろうな。この仕事を始めて、俺は多くの命を奪ってきた。その命はどれも、この世界の誰かにとっては大切な命で、何があっても失われてはならないものだった。俺は、自分を正義だと信じることが出来ないよ」
あれから数年の時を経た今でも、ヒロはまだ迷い続けていた。そんな彼に抱き着いている鈴菜は、数多の感情を噛みしめながら震えている。
「ヒロさんの命だって、そうッスよ。ヒロさんは、ウチらにとっては大切な命で、何があっても失われちゃいけねぇんスよ!」
「そうだと良いけどな……俺はウィザードになって、なおさらわからなくなってしまったよ。命とは、一体なんなのか……」
「そんなこと、誰にもわからねぇッスよ! だけど、ウチは……ウチは、ヒロさんに憧れてウィザードになったんスよ! 神崎博也でも、誰かの代替品でもなく、ウチは他ならぬアンタに救われたんスよ!」
それは決して、単なる気休めの言葉ではなかった。その声色の一つ一つには、彼女自身の屈託のない本心が籠められていた。
その傍らでため息をつき、紅愛は言う。
「ヒロ……オレがアンタの立場でも、黙っていたと思う。だけど、アンタの境遇を聞けて良かった。アンタはもう、独りで抱え込まなくて良い」
あの雨の続いた一週間の間、ヒロは孤独だった。そんな彼も今や、こうして仲間に支えられている。
「ありがとう……二人とも。俺の存在は、許されているんだな」
そう呟いた彼は、何かから解放されたような微笑みを浮かべていた。そんな彼に対し、紅愛は更なる助言をする。
「良いか、ヒロ。大きな正義には、何らかの形で罪が伴うものだ。誰かが十字架を背負うことでしか、人間の社会は成り立たねぇ。そういうもんだ」
「ああ、そうだろうな」
「だからこそ、己の存在意義を確立する手段として『正しさ』にすがるのはやめた方が良い。ただ、仲間を信じることさえ出来ればそれで良いんだ。人が存在を望まれているということは、そいつが愛されているということだから」
彼女の言葉は、ヒロの胸に深く沁み込んだ。鈴菜は彼を抱きしめていた両腕をほどき、深く頷く。
「そうッスよ! 紅愛さんの言う通りッス! 笑う時も、泣く時も、ウチらはずっと一緒ッス! ウチらがそうやって支え合っていける限り、ウチらの命には大きな意味があるはずなんスよ!」
そう語った彼女は、嬉々とした笑みを浮かべていた。しかし、そんな三人の友情を、どこか冷めた目で見ている者もいる。
「くだらないね。ヒロは、自分が必要とされたいからウィザードになったのか」
――天真だ。彼は腕を組みながら壁に寄り掛かり、冷笑を浮かべていた。そんな彼の胸倉を掴み、紅愛は激昂する。
「くだらねぇなんて言うんじゃねぇ! テメェみてぇな信念のねぇ野郎に、ヒロの生き方を否定する権利なんかねぇ!」
「キミたちはボクのやり方に反対しておいて、ヒロが自分の存在意義を求めてウィザードになったことには肯定的なんだね。ボクも、彼も……承認欲求を満たすために戦っている。そこに、なんの違いがあると言うんだい?」
「……テメェがどんな人生を送ってきたのかは知らねぇが、今すぐ前言撤回しろ。ヒロはなァ……迷いを抱えながらも、正義を愚直に信じて、たくさん傷ついて、それでもここまで頑張ってきたんだぞ!」
室内に響き渡る怒号を上げた彼女は、怒りのあまり息を荒げていた。