医務室
その日の夜、ヒロたちはテクノマギア社の医務室で目を覚ました。
「あれ……俺たち、いつの間にここに……?」
不審に思ったヒロが部屋を見渡すと、そこには天真の姿も見える。鈴菜と紅愛も困惑している中、天真一人だけは妙に冷静な表情をしていた。
「日向の奴……このボクも助けるとはね」
その言葉が正しければ、日向はたった一人でウィザードたちをここに集めたということになる。鈴菜は半信半疑になりつつも、天真に問う。
「社長は……一体、何者なんスか?」
「キミたちがそれを知る必要はない。少なくとも、面倒事に巻き込まれたくないのなら……ね」
「それって、どういう意味スか?」
具体的な返答が得られず、彼女は少し不服そうな顔をした。その傍らのベッドから起き上がり、紅愛が話に入る。
「そんなこと、後で社長に直接聞けば良いだろ。それより今は、もっと大事な話があるんじゃねぇのか?」
「大事な話って、一体……なんスか?」
「逢魔が蘇っただろ。それに、千郷も復活していた。逢魔の話を信じるなら、マリス団の幹部は……全員生き返ったということになるぞ」
そう――ウィザードたちは今、かつてない謎と直面している。神妙な空気が流れる中、鈴菜と天真も情報を共有する。
「晴香も、生き返ってたッスよ。だけど、晴香は普通の女の子になれそうッス。だから晴香に関しては、殺さずに様子を見ても良いと思うんスよ」
「キミは甘いね……鈴菜。ヴィランの本能を軽く見過ぎだよ。それは置いといて、ボクも伊吹と戦ってきた。どういうわけか、伊吹は以前よりも戦い方を熟知していたね」
一先ず、これでマリス団の幹部が全員生存していることは明らかとなった。四人に残された課題は、彼らが如何にして復活したか――その謎を突き詰めることである。
天真はその瞳に疑念を籠め、ヒロを睨みつける。
「ところで、ヒロ。キミは逢魔が生きていると知った時……『コイツもなのか』と言っていたね」
「ああ、そうだ」
「キミは何か、連中が復活したことに心当たりがあるのかい?」
確かに、ヒロはあの時、何かを知っている様子だった。そればかりか、彼は死んだはずの相手が目の前に現れた時に、あまり動じていなかった。そんな彼に疑念が向けられるのも、至極当然のことだろう。
ヒロは衝撃的なことを口走る。
「連中は生き返ったんじゃない、新しく生み出されたんだ」
その言葉に、彼自身を除く三人のウィザードが耳を疑った。特に、晴香との友情を肌身に感じていた鈴菜にとっては、なおさら信じがたい話だ。
「そんなわけねぇッスよ! だって、晴香は……ウチを覚えていたッス! それに、晴香は海に落ちたウチを助けてくれたし、あの時、泣いてたんスよ! 記憶も友情も以前のままだったのに、新しく生み出されたはずがねぇッス!」
そう語った彼女の脳裏に、晴香と過ごした日々が蘇る。先ほど対面した親友が、本人ではないということ――彼女はそれを否定したい気持ちでいっぱいだった。そんな彼女を不憫に思いつつも、ヒロは話を続ける。
「スワンプマンという極秘の技術がある。人間を身体年齢ごと複製し、複製された個体にオリジナルの記憶のバックアップを移植する技術だ」
「そんな話、どうやって信じろって言うんスか! そもそも、その極秘の技術を……どうしてヒロさんが知ってるんスか!」
「そ……それは……」
何か隠し通したい事情があるのか、彼は言葉に詰まった。それから数秒ほどの沈黙が生まれ、ウィザードたちは重苦しい空気に晒される。そして覚悟を決めたヒロは、深いため息をついてから口を開く。
「……そろそろ、話しておかなければならない。あれは、三年半ほど前にさかのぼる」
そう切り出した彼は、過去に何があったのかを語り始めた。