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適性

 その翌朝のことである。

「七時になりました。ニュースをお伝えします。昨日、明朝(みんちょう)高等学校にて、ヴィランが発生しました。すぐにウィザードが駆けつけたものの、ヴィランはドライアイスの要領で水を撒き、その隙に逃走したとのことです」

 ニュース番組にて、昨日の出来事が報道された。生きたヴィランが逃げ出したことにより、明朝高等学校の近隣住民は恐怖を噛みしめることとなるだろう。しかしそんな市民たちの中にも、勇敢な心の持ち主がいる。


 その日、学校はヴィランの存在を危険視し、臨時休校となっていた。生徒の多くはこの休日を自宅で過ごしていたが、鈴菜(すずな)は違う。彼女が歩みを進める先にあるのは、テクノマギア社という会社の社屋である。


 彼女がこの場に赴いたのは他でもない。社屋に立ち入った鈴菜は社長室の目の前まで進み、扉を二回叩く。

「失礼します!」

 彼女の活気に満ちた声は、廊下に響き渡った。扉の奥から、日向(ひゅうが)の声が聞こえてくる。

「ここはトイレではない」

「え、あ、あ……すみません! ノック、何回でしたっけ!」

「ふふ……冗談だ。本心を言わせてもらえば、私からすればノックの回数などどうでも良い。入りなさい」

 意外にも、日向は寛容な男らしい。鈴菜は恐る恐る扉を開き、社長室へと立ち寄った。そこは社長室と呼ぶにはいささか質素で、不必要に金目のものが置かれた空間ではない。それでもなお貫禄を持つ日向を前にし、彼女は酷く緊張している。そんな彼女に対し、日向は着席を促す。

「さあ、おかけになって」

「は、はい!」

 緊張が解れないまま、鈴菜はゆっくりとソファに腰を降ろした。

「緊張しなくても良い。ビジネスマナーなどというものは所詮、誠意を見せる手段でしかない。マナーを目的と履き違える者は、確かに多いのだがね」

「そ、その誠意は、マナーを学ぼうとする意識でしか証明できないものかと……」

「フッフッフッ……それも一理ある。しかしまあ、前置きはもう十分だ。本題に移ろうではないか」

「は、はい……」

 鈴菜にとって、日向はどこか掴みどころのない人物だ。同時に、彼は大人の余裕のようなものを併せ持っており、どこか独特な人間性を醸していると言える。鈴菜は深呼吸を挟み、それから本題に移る。

「ウチ……い、いや、私を、ウィザードにしてください!」

 それが彼女の望みだった。

「正気かね? ウィザードとして生きるということは、命を張る覚悟をするということだが……」

「はい! 私の親友が、ヴィランになったので、私の手で倒さないといけません! それに、私はウィザードに命を救われましたし、私にも戦う理由があるんです!」

 そう主張した鈴菜の顔つきには、妙な気迫があった。日向は微笑みを浮かべ、デスクの引き出しから腕輪のようなものを取り出す。

「これから君に、適性検査を受けてもらう」

「は、はい! ありがとうございます!」

「検査は簡単だ。これを腕に装着し、測定ボタンを押すんだ。七十点を超過すれば、君にはウィザード適性がある」

 何やらウィザードになるには、相応かそれ以上の適性が要されるらしい。日向はさっそく、鈴菜の手首に検査機器を取り付けた。それから数秒後、機器は検査終了を告げるアラームを鳴らし、鈴菜のウィザード適性を表示した。その数値を前に、日向は驚きを隠せなかった。

「八十五点……だと? 驚いた。まさか君が、ダイヤの原石だったとは」

「八十五点って、凄いのですか?」

「ああ、凄すぎる。そうだ、表示切り替えのボタンを押しなさい。君に適した『魔法石』が表示される」

 彼の指示に従い、鈴菜は表示を切り替えた。小さなモニターに、「ノヴァ・マスター」という文字が映し出される。

「今から君を、ウィザードにする。準備は良いかね?」

 そう訊ねた日向は、棚から注射器を取り出した。

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