表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/116

二体の巨人

 同じ頃、天真(てんま)伊吹(いぶき)は、とある運動場のグラウンドに立っていた。緊迫した空気が漂う中、両者は互いを睨み合う。

「変身!」

「……変身」

 天真はウィザードの衣装に身を包み、伊吹は玄武型のヴィランに姿を変えた。いよいよ戦闘開始だ。

「さあ、始めようか」

 そう呟いた天真は糸を放ち、その場に巨大な人形を生み出した。伊吹は一ヶ所に熱を集め、その場に巨大な炎の人形を生み出す。

「良いだろう。だが、勝つのは俺様だ」

 彼が不敵に笑うや否や、炎の人形はすぐに動き出した。二つの人形は拳をぶつけ合うが、炎の体には物理攻撃が通用しない。糸の人形は、一方的に燃やされていくばかりだ。一見、この戦いは天真にとって不利に思えるだろう。


 しかし、ここで手を打たない彼ではない。


 彼の使役する人形は、眼前の炎への攻撃をやめた。その体から糸を伸ばし、人形は伊吹の身を捕らえた。当然、糸の人形には灼熱の炎が引火している。その炎に巻き込まれ、彼は苦しみ始める。その隙を見逃さなかった天真は、己の手から糸を発射する。

「キミに勝利は譲らない。ボクは、最強のウィザードだ」

「大した自信だな。だが、俺様に勝てるかな?」

 咄嗟の判断により、伊吹は糸の挙動を捻じ曲げた。それだけではない。彼は炎の動きも操り、逆に天真の身を焼き始めた。炎は火力を増し、天真を着実に苦しめている。そんな中で、彼は異常に気づく。

「以前よりも、強くなっている。だが、ヴィランレベルが格段に上がったようには感じない。一体、何があったんだい?」

 伊吹だけではない。逢魔(おうま)も、晴香(はるか)も、そして千郷も(ちさと)――依然と比べて明らかに強くなっていた。そして何よりも不可解なのは、彼らのヴィランレベルにさしたる変化が感じられないことである。伊吹は天真の身を宙に浮かせ、問いに答えていく。

「さあな。俺様も理屈は知らないが、どういうわけか今の俺様の頭には『戦い方』が叩き込まれている。まるで、あたかも俺様が記憶していたかの如く――だ」

「どういうことだ……?」

「理屈は知らないと言っているだろ。さあ、続けようか」

 何やら、彼自身にもその身に起きたことがわからないようだ。そんな彼の魔術により、天真はグラウンドに叩きつけられた。天真はすぐに立ち上がり、巨大な糸の拳を作り出す。その拳に殴り飛ばされた伊吹は、その身を退けられてしまう。しかし彼は、依然として余裕のある笑みを浮かべている。彼は上空へと飛び立ち、魔術を発動する。直後、グラウンドの芝が燃やされ、その炎は勢いよく燃え広がった。

「しまった……!」

 天真は上空に糸を伸ばし、その先端を相手の足に巻き付けようと試みた。しかし伊吹は糸の挙動を捻じ曲げ、空の高い場所で笑っている。そんな彼が上着を脱ぎ捨てると、その内ポケットからは大量の剃刀が姿を現した。直後、剃刀は一斉に動き出し、天真の方へと飛んでいく。

「ククク……お前が酸素濃度の薄い炎の中で、どれくらい逃げ回れるか……高みの見物といこうか!」

 そんな声が上空で響き渡るや否や、無数の剃刀は天真の身に切り傷を刻み始めた。天真は必死に糸を飛ばすが、その全てが炎で焼け落ちてしまう。そればかりか、新鮮な空気を吸うことさえままならない状況の彼は、肩で息をしている有り様だ。その上、彼の体にはノイズが走り始めている。天真は噎せ返り、血を吐き、そして膝から崩れ落ちた。そんな彼の姿は煙に隠れていたが、伊吹は勝利を確信する。

「お前の負けだ! 天真!」

 勝利を宣言した伊吹は、炎を一ヶ所に圧縮した。炎の持つエネルギーが急激に圧縮されたことにより、グラウンドは大爆発に包まれた。燃え盛る爆炎を見下ろしつつ、伊吹は変身を解く。

「天真の魔力が消えたか。俺様の勝ちだな」

 彼は不敵に笑い、遠方へと飛び去っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ