二体の巨人
同じ頃、天真と伊吹は、とある運動場のグラウンドに立っていた。緊迫した空気が漂う中、両者は互いを睨み合う。
「変身!」
「……変身」
天真はウィザードの衣装に身を包み、伊吹は玄武型のヴィランに姿を変えた。いよいよ戦闘開始だ。
「さあ、始めようか」
そう呟いた天真は糸を放ち、その場に巨大な人形を生み出した。伊吹は一ヶ所に熱を集め、その場に巨大な炎の人形を生み出す。
「良いだろう。だが、勝つのは俺様だ」
彼が不敵に笑うや否や、炎の人形はすぐに動き出した。二つの人形は拳をぶつけ合うが、炎の体には物理攻撃が通用しない。糸の人形は、一方的に燃やされていくばかりだ。一見、この戦いは天真にとって不利に思えるだろう。
しかし、ここで手を打たない彼ではない。
彼の使役する人形は、眼前の炎への攻撃をやめた。その体から糸を伸ばし、人形は伊吹の身を捕らえた。当然、糸の人形には灼熱の炎が引火している。その炎に巻き込まれ、彼は苦しみ始める。その隙を見逃さなかった天真は、己の手から糸を発射する。
「キミに勝利は譲らない。ボクは、最強のウィザードだ」
「大した自信だな。だが、俺様に勝てるかな?」
咄嗟の判断により、伊吹は糸の挙動を捻じ曲げた。それだけではない。彼は炎の動きも操り、逆に天真の身を焼き始めた。炎は火力を増し、天真を着実に苦しめている。そんな中で、彼は異常に気づく。
「以前よりも、強くなっている。だが、ヴィランレベルが格段に上がったようには感じない。一体、何があったんだい?」
伊吹だけではない。逢魔も、晴香も、そして千郷も――依然と比べて明らかに強くなっていた。そして何よりも不可解なのは、彼らのヴィランレベルにさしたる変化が感じられないことである。伊吹は天真の身を宙に浮かせ、問いに答えていく。
「さあな。俺様も理屈は知らないが、どういうわけか今の俺様の頭には『戦い方』が叩き込まれている。まるで、あたかも俺様が記憶していたかの如く――だ」
「どういうことだ……?」
「理屈は知らないと言っているだろ。さあ、続けようか」
何やら、彼自身にもその身に起きたことがわからないようだ。そんな彼の魔術により、天真はグラウンドに叩きつけられた。天真はすぐに立ち上がり、巨大な糸の拳を作り出す。その拳に殴り飛ばされた伊吹は、その身を退けられてしまう。しかし彼は、依然として余裕のある笑みを浮かべている。彼は上空へと飛び立ち、魔術を発動する。直後、グラウンドの芝が燃やされ、その炎は勢いよく燃え広がった。
「しまった……!」
天真は上空に糸を伸ばし、その先端を相手の足に巻き付けようと試みた。しかし伊吹は糸の挙動を捻じ曲げ、空の高い場所で笑っている。そんな彼が上着を脱ぎ捨てると、その内ポケットからは大量の剃刀が姿を現した。直後、剃刀は一斉に動き出し、天真の方へと飛んでいく。
「ククク……お前が酸素濃度の薄い炎の中で、どれくらい逃げ回れるか……高みの見物といこうか!」
そんな声が上空で響き渡るや否や、無数の剃刀は天真の身に切り傷を刻み始めた。天真は必死に糸を飛ばすが、その全てが炎で焼け落ちてしまう。そればかりか、新鮮な空気を吸うことさえままならない状況の彼は、肩で息をしている有り様だ。その上、彼の体にはノイズが走り始めている。天真は噎せ返り、血を吐き、そして膝から崩れ落ちた。そんな彼の姿は煙に隠れていたが、伊吹は勝利を確信する。
「お前の負けだ! 天真!」
勝利を宣言した伊吹は、炎を一ヶ所に圧縮した。炎の持つエネルギーが急激に圧縮されたことにより、グラウンドは大爆発に包まれた。燃え盛る爆炎を見下ろしつつ、伊吹は変身を解く。
「天真の魔力が消えたか。俺様の勝ちだな」
彼は不敵に笑い、遠方へと飛び去っていった。