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殴り合い

 一方、紅愛(くれあ)はとある駅前にある広場にいた。その目の前にはたくさんの死体が転がっており、死屍累々とした光景が広がっている。辺りに散らばる廃車は窓ガラスを割られており、灼熱の炎に呑まれている有り様だ。こんな荒々しい真似をするヴィランは、ただ一人だけだろう。

千郷(ちさと)……!」

 その正体を見破った紅愛はすぐに変身し、光線銃のトリガーを引いた。そこから放たれた光線は近くの大型トラックを撃ち貫き、勢いよく爆発した。爆炎の中から姿を現したのは、興奮で息を荒げている千郷だ。

「この前はよくもアタイを殺してくれたな。たっぷり礼をしてやるよ」

 相変わらず、彼女の声色には苛立ちが籠っていた。彼女は一瓶のテキーラを飲み干し、それから白虎型のヴィランに変身する。


――戦闘開始だ。


 彼女は次々と爆弾を生み出し、それを前方に投げつけていった。紅愛は爆弾を撃ち貫きつつ、駆け足で間合いを詰めていく。

「爆弾魔のアンタは、近接戦闘には向かねぇだろうな」

 そう確信した彼女は、眼前のヴィランに全力で殴りかかった。千郷は迫りくる拳を掌で受け止め、それから紅愛の手首を勢いよくひねった。これにより紅愛は倒れ込むが、その挙動を利用して千郷の右脚に己の両足を引っ掛ける。千郷はその場で転倒しつつも、相手の体に馬乗りになった。

「マウントポジションだな。さあ、どうする?」

 彼女は強気な笑みを浮かべ、紅愛の顔面目掛けて拳を振り下ろした。紅愛は咄嗟に己の尻を上げ、その勢いを利用して千郷の左手首を引っ張った。そのまま彼女はアスファルトを転がり、今度は千郷の体にまたがった。直後、紅愛の振り下ろした右手の握り拳は、眼前の標的の鼻に命中する。千郷は鼻血を流しつつも、紅愛の額に勢いよく頭突きした。

「ああ、楽しい。やはり戦いは、アタイを満たしてくれる」

 奇しくも、普段から苛立っているこの女が満たされる瞬間は、闘争の中に存在しているようだ。目の前でよろけているウィザードを突き飛ばし、千郷はすぐに立ち上がる。それから己の手元に爆弾を生み出し、彼女は囁く。

「……だが、遊びは終わりだ」

 彼女の投げた爆弾は爆発し、その爆炎で紅愛の身を包み込んだ。その一撃に後続し、更に三つの爆弾が投下される。爆炎は勢いよく燃え上がり、紅愛を着実に苦しめていった。そんな地獄絵図を前に、千郷は嬉々とした笑みを浮かべている。

「爆ぜろ」

 そう呟いた彼女は、直径一メートルにも及ぶ爆弾を生み出した。彼女がそれを投げるや否や、その場には激しい爆発が発生した。紅愛は変身を解かれ、宙に投げ出される。それから地面に叩きつけられた彼女は、数回ほど地面を転がった。そしてうつ伏せになりながらも、彼女は震える両腕で上体を起こそうとした。一方で、千郷はまだ満足していないのか、白虎型のヴィランの姿を保ったまま相手の指を踏みつけた。

「変身解除で終わると思ったか? テメェが死ぬまで、アタイは満足できねぇよ」

「クソッ……前は勝てたのに、オレはここで終わるのか……?」

「ああ、終わるさ。アタイが、テメェの命を終わらせる!」

 激昂した千郷は、左手で紅愛の髪を掴み上げた。それから彼女は、眼前のウィザードの煤と鮮血で汚れた顔面に、強烈な右ストレートを叩き込んだ。紅愛はついに限界を迎え、その場に崩れ落ちた。彼女が気を失ってもなお、千郷は満足していない。

「さあ、トドメを刺さないとな」

 そう呟いた千郷は歯を見せて笑い、拳を振り上げた。この拳が振り落とされれば、紅愛の命はないだろう。


 その瞬間だった。


 突如、紅愛はその場から消えた。


 この時、千郷の脳を巡ったものは、疑問ではない。

「……ふざけるな!」

 怒りを覚えた彼女は、近くの紳士服屋のショーウィンドウを叩き割った。

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