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普通の女の子

 鈴菜(すずな)が気付くと、そこは彼女が通う墓地だった。そして彼女の目の前では今、本来ならばそこにいないはずの人物が腰を降ろしている。

(あずさ)……?」

 鈴菜は目を疑った。彼女が何度目を凝らしても、そこには親友の姿があった。梓は微笑み、話を切り出す。

「久しぶりだね……鈴菜」

「梓! 会いたかったッスよ!」

「アタシも、会いたかったよ」

 今の彼女はヴィランではない。彼女が感じさせる温もりは、紛れもなく鈴菜のよく知る彼女だった。

「そっちはどうッスか? 楽しくやれてるッスか?」

「そうだね。アタシは今、とても居心地の良い場所にいるよ。鈴菜がいないと寂しいけれど、それでも昔飼っていた犬と会えたことが一番嬉しかったかな」

「楽しそうで何よりッス。梓……ウチも、そっちに行っても良いッスか?」

 そう訊ねた鈴菜は、すでに死を覚悟していた。否、今の彼女には、死を選ぶ意志が宿っているのだ。


 そんな彼女に対し、梓は首を横に振る。

「鈴菜を迎えに来たのは、アタシじゃないよ」

「どういうことッスか? だって、梓は今、こうしてウチの前に……」

「ううん。アタシはただ、鈴菜に少しだけ会いたかっただけだよ。それに、鈴菜が生きることを望んでいる人がいる」

 曰く、まだ鈴菜が死ぬ時ではないようだ。この世にはまだ、彼女の死を望まない人間がいる。

「ヒロさんや、紅愛(くれあ)さんッスか?」

 鈴菜は訊ねた。無論、彼女の推測は外れていない。しかしその二人の他にも、彼女を生かしたいと思っている者はいる。

「そうね。そして、アタシだって鈴菜には生きていて欲しい。それに、もうすぐ本当に迎えが来るから……」

「迎えが?」

「来るでしょ? 鈴菜のことを第一に思っている――鈴菜の大切な友達が」

 そう囁いた梓は、どこか寂しげな表情をしていた。



――墓地は眩い光に包まれた。



 鈴菜が目を覚ますと、そこは港だった。その体に馬乗りになっていたのは、変身を解いた状態の晴香(はるか)だった。

「良かった……生きてて」

 それが鈴菜の聞いた――晴香の第一声だった。晴香は全身に海水を浴び、びしょ濡れになっていた。思わぬ事態を前に、鈴菜は困惑するばかりだ。

「晴香が、助けてくれたんスか?」

「ええ、そんなところよ」

「どうして、晴香がウチを……?」

 かつては親睦を深めた二人も、今は敵同士のはずだ。それでも晴香は海に飛び込み、自らの敵を救い出したのだ。彼女は泣き崩れ、鈴菜を強く抱きしめる。

「ワタシには、アナタを殺せないわ。アナタを殺さなきゃいけないのに、ワタシはヴィランなのに……!」

「晴香……今からでも間に合うッス。これからは、普通の女の子として生きていくべきッスよ」

 鈴菜は港に寝そべったまま、晴香の背中を優しくさすった。その小刻みに震える背中から、鈴菜の掌まで振動が伝ってくる。それは彼女にとって、少しばかり心地よい感触であった。

「鈴菜。ワタシは、やり直せるのかしら」

「アンタ自身の力でヴィランの本能を克服できるかは、わからねぇッス。だけどウチは、アンタのこれからの人生を楽しいことでいっぱいにして、ヴィランの本能なんかかき消してやるッスよ。それが、親友ってヤツじゃねぇッスか」

「親友……?」

 親友という言葉を聞いた晴香は、自分がどこか救われたような感覚を覚えた。これから先、何があったとしても、二人の絆が失われることはないだろう。


 その時、その場に一人の少年が現れた。

「やぁ、ずいぶん仲が良いんだね」

――逢魔の登場だ。しかし今の鈴菜は、戦える状態にない。彼女の代わりに立ち上がった晴香は、鋭い眼光で彼を睨みつけた。


 その直後、鈴菜は一瞬にしてその場から消えた。


 突然のことに唖然とする晴香の傍らで、逢魔は深いため息をつく。

「晴香。アイツらの他にも、もう一人ウィザードがいる」

 そう呟いた彼は、そのウィザードの魔力が残留しているのを感じ取っていた。

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