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 その頃、鈴菜(すずな)は街外れにある港に赴いていた。そこではすでに何人もの人が倒れており、その中心には鳥型のヴィラン――晴香(はるか)の姿があった。

「もう一度アンタに会えて、嬉しいッス。でも、アンタも結局は、ヴィランなんスね……」

「ええ、そうよ。アナタはウィザードで、ワタシはヴィラン……ワタシたちはそういう星の下に生まれてきたの。さあ、変身しなさい」

「……おっす」

 やり場のない想いを抱えつつ、鈴菜は変身した。しかし彼女は、まだ攻撃を仕掛けようとはしない。晴香は首を傾げ、彼女に問う。

「どうしたの? 鈴菜。ワタシを倒すのが、アナタの仕事でしょ? それに、一度はワタシを倒したじゃない」

 あの日、鈴菜は確かに覚悟を決めていた。そして彼女は全力をもってして、目の前のヴィランを倒したのだ。無論、そんな彼女がまだ動かないことには理由がある。

「もちろん、戦うッスよ。でも、その前に……これだけは言っておかねぇと後悔すると思うんスよ」

「何かしら」

「晴香。ウチと友達になってくれて、本当にありがとうッス」

 その言葉に、晴香は息を呑んだ。それから彼女は深呼吸を挟み、言葉を紡ごうとする。

「なんと言えば、良いのかしら。今のアナタの言葉を、ワタシは望んでいたのかも知れないし、あるいは望んでいなかったのかも知れないわ。ワタシには……ワタシにはもう、自分の感情がわからないわ」

 複雑な心情を胸に、晴香は頭を悩ませた。すでに変身している彼女から表情を読み取るのは至難の業だろう。そんな彼女を睨みつつ、鈴菜は構えを取る。

「ここからは、恨みっこ無しッスよ」

 さっそく、鈴菜は星型の光を連射した。無数の光の全ては、目の前のヴィランの頭を容赦なく追尾していく。その一つ一つを巧みな体術で破壊しつつ、晴香は間合いを詰めていった。それから両者の戦いは、殴り合いに発展する。何発もの打撃や蹴りにより、辺りには衝撃波が放たれていく。そんな命のやり取りを交わしつつ、二人は対話する。

「鈴菜。ワタシ、夢を見たの」

「どんな夢だったんスか……それは!」

「ワタシたちが普通の人間に生まれ変わって、山奥で星空を見上げながら語らい合う――そんな夢だったわ」

 その夢はおそらく、晴香自身の願望の顕れだったのだろう。そんな彼女の心情を感じ取り、鈴菜は息を呑んだ。鈴菜がこれから倒そうとしているのはヴィランで、悪事に生きる遺伝子に縛られている存在だ。しかしそんなヴィランにも、人間らしい感情が備わっている。そんな悲哀を噛みしめつつ、鈴菜は涙を堪えた。

「晴香。アンタは、ヴィランなんかに生まれたくはなかったってことッスか?」

「そうね。ワタシは、目に映る嫌いなものを全て破壊して、面白おかしく生きてきたつもりだったけど……それでもワタシは、そんな自分が嫌いだったわ」

 ヴィランとしての悪意と、人間としての罪悪感――その両方を背負って生きてきた晴香の苦悩は、想像を絶するものだろう。


 鈴菜は攻撃の手を止め、その場で泣き崩れた。

「自分が嫌いだなんて、そんなこと言わないで欲しいッス! 晴香は、遺伝子のせいで苦しんで、苦しんで苦しんで、それでも強く生きてきたじゃねぇッスか!」

 押し寄せる同情により、彼女の戦意は徐々に薄れていく。しかし彼女の優しさは、晴香の神経を逆撫でする。

「ワタシ、強くなんかないわ!」

「晴香……?」

「人々を傷つけないと生きていけないワタシが、どうやって自分自身を好きになれば良いの? ヴィランになったこともないのに、知った風なことを言わないで!」

 港一帯に、晴香の怒号が響き渡った。彼女は無意識のうちに、全力の右ストレートを前方に放っていた。怒りを帯びた拳に殴り飛ばされた鈴菜は変身が解け、海面に叩きつけられた。

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