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 その頃、天真(てんま)は街角に赴いていた。彼を待ち構えていたのは、マリス団の幹部の最後の一人――伊吹(いぶき)だ。眼前の宿敵を睨みつけ、天真は言う。

「御託は結構だ。さあ、始めようか」

 もはや彼に、相手の話を聞くつもりなどない。天真は即座に変身し、いつものように糸を放った。そんな彼に応戦するように変身し、伊吹は糸の挙動を捻じ曲げる。同時に、天真の身は宙に持ち上げられ、そしてアスファルトに叩きつけられた。彼は酷く咳き込みつつ、その体を奮い立たせる。どんな強敵を目の前にしていようと、彼がその場から逃げ出す様子はない。天真は周囲に無数の糸を張り巡らせ、先ずは己のテリトリーを確保しようと試みる。しかし伊吹の魔術はそれらを一箇所に束ね、一つの球体に変えてしまう。やはり天真の魔術は、伊吹を倒すのに不向きなのだろう。

「俺様の魔術に、弱点はない」

 そう呟いた伊吹が微笑むや否や、天真の体は発火した。ウィザードとしての経験の長さからか、天真はすぐに事態を理解する。

「熱を一箇所に集めたのか……」

「流石は天真――と、言ったところか。この通り、俺様の魔術に弱点はない。さあ、俺様の餌食になるが良い」

「そうはいかないよ。ボクはヒーローで、キミはやられ役だからね」

 危機的状況に陥ってもなお、彼は強気だった。そんな彼に呆れつつも、伊吹はその胸に闘志を宿している。突如、周囲に停車された何台もの車が宙を舞い、一斉に天真の方へと飛んでいった。天真は大きな繭を形成し、己の身を守る。無論、その行動は伊吹の想定内である。糸の防壁の表面を埋め尽くす大量の車を前に、彼は笑う。

「俺様がやられ役? 面白い冗談だ」

 そう呟いた彼は、車の塊と化した繭を発火させた。当然、炎は大量の車に引火し、凄まじい勢いで燃え広がっていく。

「これは……まずいな……」

 燃え盛る業火の中で、伊吹の体の節々にノイズが走った。このままでは、彼の変身が解けるのも時間の問題だろう。

「さあどうする? 天真! お前は今、袋のネズミだ!」

 声を張り上げた伊吹は魔術を使い、今度は付近に停まっていたタンクローリーを走らせた。タンクローリーは速度を上げ、天真を襲う業火へと突っ込んだ。


――繭は大爆発を起こし、天真の身が宙に放り出された。


 彼はすぐに着地し、眼前の標的を睨みつけた。呼吸を荒げ、口元から血を流している彼は、すでに満身創痍の有り様だ。それでもなお、彼は戦意を失ってはいない。

「そろそろ、本気を出すか」

 天真はか細い声で呟いた。直後、彼のすぐ隣で無数の糸が束ねられ、体長十メートルほどの人形が生み出される。

「ふっ……所詮は見せかけだろう」

 今のところ無傷の状態を保っている伊吹は、当然ながら慢心していた。彼はすぐに魔術を発動したが、人形がその力に動かされる様子はない。そこで彼は熱を集め、人形を発火させた。しかし、眼前の人形は炎を帯びたまま、剛腕を振り下ろした。伊吹は全力を籠め、必死に巨大な拳を止めようとする。しかし人形の拳は、じりじりと彼の方に迫っていく。


 肩で息をしつつ、天真は種明かしをする。

「確かにキミの魔術に弱点と言った弱点はないだろう。だったら、それを上回る力で動くものを作るだけだ」

 そう――これは力技だ。巨大な人形は炎によってじわじわと溶けているが、もう少しで伊吹を叩き潰せる状態でもある。

「やめろ……来るな! 俺様に触るな!」

 彼はそう叫んだものの、その体にはすでにノイズが走っていた。彼の身にも限界が迫っていたようだ。

「ボクの勝ちだ……伊吹!」

 天真が勝利を宣言した直後、人形の拳は伊吹の身を叩き潰した。この一撃により、伊吹の身は爆発する。

「嫌だ! 死にたくない! 推しのドラマチックな死を見るまで、俺様は――」

 最期の言葉を言いきる前に、伊吹はこの世から消滅した。

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