友との決別
同じ頃、鈴菜は晴香と対面していた。
「ついにこの時が、来たんスね」
「アナタを殺すのは惜しいけど、手加減はしないわ」
「ウチも、手加減なんかしねぇッス!」
覚悟を背負っているのは、どちらも同じだ。
「変身!」
「変身」
二人はすぐに変身した。もはや彼女たちに迷いなどない。晴香は息を呑み、鈴菜の方へと駆け寄った。直後、彼女の身には無数の星型の光が降り注ぐ。その一つ一つは、彼女の体に触れるや否や爆発していく。しかし晴香は、その節度再生していく。彼女は先ず、鈴菜の鳩尾に膝蹴りを入れた。鈴菜は吐血したが、すぐに星型の光を連射した。至近距離から放たれた光は、晴香の腹部を容赦なく貫く。しかしその風穴は、彼女の魔術によって瞬時に塞がってしまう。
「再生能力があるなら、正攻法では倒せねぇッスね……」
いつまでも無意味な攻撃を続ける鈴菜ではない。彼女は思考を巡らせ、眼前の友人を倒す方法を模索する。その最中にも、晴香の体術は容赦なく炸裂し、鈴菜の身を傷つけていく。
「親愛なるアナタに、良いことを教えてあげるわ。無駄な抵抗をやめれば、アナタは楽に逝ける」
「ここで逃げたら、ウチを支えてくれた人たちへの裏切りになるッス! ウチは絶対に、アンタを倒す!」
「相変わらず、威勢が良いわね。私はそんなアナタが好きよ……鈴菜」
そう囁いた晴香は、鈴菜の顔面に強烈な右ストレートを叩き込んだ。鈴菜は後方に吹き飛びつつも、宙で体勢を整えて着地する。その口元からは血液が零れ落ちており、彼女の負った傷がいかに重いかを物語っている。無論、そこで攻撃をやめる晴香ではない。
「アナタも、マリス団に来て」
この期に及んで相手を勧誘した彼女は、鈴菜の胸部にラッシュを叩き込んだ。この猛攻により肋骨を折られた鈴菜は、肩で呼吸をしながらも己の体を奮い立たせる。両者共に、もはや後戻りは出来ない状況だ。
「絶対に、ウチはヒロさんや紅愛さんを裏切らねぇッス!」
声を張り上げた鈴菜は、再び無数の光を乱射した。それらが向かう先は、晴香の頭部である。
「なるほど……確かに頭を撃たれれば、ワタシも自らの意志で魔術を発動できなくなるわね」
標的の思惑に気づいた晴香は、すぐに光の弾幕から逃げ回った。しかし無数の星型の光は、いずれも彼女の頭を追尾している。
「逃さねぇッスよ……晴香!」
「あら。逃げ回る以外にも、ワタシには己を守る方法があるのよ?」
一見、弱点を追尾する弾幕に対処する方法など見当たらないように思えるだろう。しかし、晴香には再生能力がある。彼女は自らの両腕で頭部を守り、弾幕の全てを受け止めた。これにより彼女は両腕を消し飛ばされるが、持ち前の魔術によってすぐに再生する。闇雲に頭を狙うだけでは、彼女を倒すことは難しいだろう。
――もっとも、それは鈴菜が成長していなければの話である。
晴香が気づくと、その頭上には星型の光が密集していた。彼女はすぐに間合いを詰め、鈴菜の身を拘束する。
「ここであれを発射したら、アナタも道連れになるわ」
あの光を浴びれば、晴香の脳は一瞬で消し飛ぶだろう。そんな彼女にも、鈴菜を巻き込む手段だけは残されていた。一方で、鈴菜も覚悟を決めている。
「それで構わねぇッスよ」
そう囁いた彼女は、不敵な微笑みを浮かべていた。二人の頭上に、眩い光が差し込んでいく。
その時である。
「ワタシの負けよ、鈴菜」
そんな言葉を遺し、晴香は鈴菜を突き飛ばした。鈴菜の目の前で、晴香は凄まじい火力の光線にその身を焼かれていく。
「晴香……?」
鈴菜がそう呟いた途端――
――その目の前で、大爆発が起きた。
それから彼女は、晴香が完全に消滅するのを見守った。鈴菜が大粒の涙を零しながら崩れ落ちた一方で、晴香は最期の瞬間まで微笑んでいた。