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今回限り

 先ず初めに、鈴菜(すずな)は自分が生きていることに気づいた。彼女は鳥型のヴィランに押し倒されており、その身を守られていた。

晴香(はるか)……?」

 その光景に、彼女は目を疑うばかりだった。爆発を一身に受け止めた晴香は全身に傷を負っていたが、持ち前の魔力によりすぐに回復した。


 予期せぬ事態を前にして、千郷(ちさと)は激昂する。

「なんのつもりだ! 晴香ァ!」

「鈴菜はワタシの友達よ。だから鈴菜を殺すヴィランも、ワタシじゃないといけないの」

「なんだそれは。そんなしがらみに囚われていたら、面白おかしく生きることが出来ねぇだろうが!」

 怒りを露わにした彼女は、前方に次々と爆弾を投げつけていく。しかし彼女の相手は晴香だ。晴香の身は何度傷ついても、すぐに無傷の状態にまで回復してしまう。更に言うならば、この女は己の身を守る必要がない。このまま近接戦闘に持ち込めば、彼女は優位に立つことが出来るだろう。


 それでも、彼女にはそれを実行できない理由がある。そして、千郷はそれを見抜いている。

「アンタがほんの一瞬でもその場を離れれば、アタイは鈴菜の方に爆弾を投げる。それも、とびきり火力の高いものをな」

 そう――鈴菜の盾になる必要がある以上、飛び道具を持たない晴香には攻撃手段がないのだ。両者ともに、相手を倒す有効な手段を持っていない。両者の間を強風が吹き抜け、辺りには緊迫した空気が立ち込めた。


 その時である。


 突如、星型の光が千郷の身に降り注いだ。

「……!」

 千郷はすぐにその場から跳躍し、間一髪で不意打ちをかわした。晴香の背後には、満身創痍の鈴菜が立っている。

「ウチは、まだ戦えるッスよ。ここからは、二対一ッス!」

 これで千郷は不利になった。彼女は舌打ちをするや否や、その場に大きな爆弾を生み出した。そして彼女は、その爆弾を投げ捨てる。

「伏せて! 鈴菜!」

 咄嗟の判断により、晴香は鈴菜を伏せさせた。それから鈴菜の身に覆いかぶさり、晴香はその再生能力の高い背中で爆炎を受け止めた。


 やがて路地裏を包み込んでいた煙が去った時、そこにはもう千郷の姿はなかった。


 晴香は変身を解き、安堵のため息をついた。

「相変わらず、逃げ足が速いわね……あの子」

 そう呟いた彼女は、苦笑いを浮かべていた。彼女に続き、鈴菜も変身を解く。その身はすでに、酷く傷ついている。

「ありがとッス! 晴香!」

「今回限りよ、鈴菜」

「おっす!」

 何はともあれ、これで一件落着だ。しかし二人は、いずれ殺し合わなければならない関係である。

「……次に会った時は、敵同士よ」

 そんな宣戦布告をし、晴香は相手に背を向けた。それから彼女は、妙な哀愁を漂わせながらその場を去っていった。



 *



 翌日、鈴菜は晴香と過ごした日々について、ヒロと紅愛(くれあ)に打ち明けた。

「ウィザードとヴィランは、わかり合えるんスかね……?」

 そう訊ねた彼女の目には、まるで光が宿っていなかった。彼女はすでに、答えを察しているのだろう。そこでヒロは考えた。

「俺はその質問には答えられないよ。だけど、俺たちは仲間だ。鈴菜、紅愛……今日は暇か?」

 彼の質問に、二人は恐る恐る頷いた。ヒロは優しさの籠った微笑みを浮かべ、彼女たちに提案する。

「これから、三人で出かけないか? たくさん食べて、たくさん歌って、たくさん思い出を作ろう」

「良いッスね! 行きてぇッス!」

「たまには、こういうのも悪くねぇな」

 二人は乗り気だ。いつの間にか、鈴菜の顔からは満面の笑みがこぼれていた。

「それじゃ、さっそく、今から予約できるカラオケ屋を探してみるッス!」

 鈴菜はカラオケ屋に予約を入れるべく、携帯電話を取り出した。その背面には、満面の笑みを浮かべながら指でハートを描いている――鈴菜と晴香のプリント写真が貼られていた。

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