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コウモリ

 翌朝、紅愛(くれあ)の部屋でインターホンの音が鳴り響いた。布団の上で熟睡している妹を起こさぬよう、紅愛は忍び足で玄関へと向かう。昨日のこともあり、彼女は来客に警戒していた。彼女がドアアイを覗き込むと、そこには伊吹(いぶき)の姿がある。紅愛は恐る恐る扉を開き、彼に用件を訊ねる。

「なんの用だ?」

「……ヴィランが現れた。そして俺様はちょうど、お前を鍛えたいと思っていたところだ。ついてこい」

「はぁ……」

 彼女はまだ、彼の思惑を知らない。しかしウィザードとして、彼女にはヴィランの存在を無視することなど出来ない。紅愛はすぐに身支度を済ませ、アパートを飛び出していった。



 伊吹に案内され、紅愛は街角に赴いた。そこで彼女を待ち受けていたのは、コウモリ型のヴィランである。ヴィランは影の中に潜り込み、別の影から姿を現しては通行人を食い殺している。


 もはや紅愛に、迷っている暇はない。

「変身!」

 彼女は即座に変身し、光線銃を構えた。その銃口からはビームが乱射されていくが、コウモリ型のヴィランに攻撃が通用する様子はない。彼女が影と同化するや否や、光線はその身をすり抜けてしまうのだ。

「ちっ……厄介だな」

 いくら相手の動きを読むことが出来ても、相手に攻撃が通用しなければ意味はない。そこで紅愛は考えた。彼女は神経を研ぎ澄まし、好機が巡るのを虎視眈々と待つ。そして数秒後、ついにその好機は巡ってきた。


 コウモリ型のヴィランが、一人の通行人に手をかけようとした。

「今だ!」

 咄嗟の判断により、紅愛は光線銃のトリガーを引いた。彼女の読み通り、光線はヴィランの脇腹を勢いよく貫いた。


 この光景を前にして、伊吹は微笑む。

「気づいたか……あのヴィランに『触れられる瞬間』に……」

 そう――あのヴィランは、影と同化した状態では他者に攻撃が出来ないのだ。あの一瞬の内にその事実を見抜いた紅愛は、生粋のウィザードだ。そんな彼女の背後に、コウモリ型のヴィランは姿を現す。しかし相手は、敵対者の動きを読む魔術の使い手だ。

「ほう……近接戦闘をご所望とはな!」

 紅愛の強烈な後ろ蹴りは、ヴィランの身を退けた。それから彼女は体術を駆使し、相手を追い詰めていく。それに応戦し、ヴィランも体術に集中する。両者が互いに打撃や蹴りを食らわせていくたびに、その周囲には衝撃波が発生する。ヴィランは影と同化することで己の身を守れるが、その動きさえも紅愛に読まれている。


 この戦いにおいて、紅愛は優位に立っている。


 やがて、コウモリ型のヴィランの動きが鈍り始めた。その体に多くの傷を負い、彼女の平衡感覚は確実に乱れている。無論、この好機を逃す紅愛ではない。

「カタをつけてやる!」

 彼女はその場で跳躍し、強烈な飛び蹴りをお見舞いした。ヴィランは勢いよく爆発し、爆炎の中でその正体を露わにする。


 変身の解けた彼女を前に、紅愛は目を疑った。

「オフクロ……?」

 そう――このヴィランの正体は伊呂波(いろは)だったのだ。気づけば、紅愛の体は勝手に動いていた。この時、彼女は実母の方へと駆け寄っていた。伊呂波はおぼつかない足取りで二、三歩ほど歩き、それから紅愛にもたれかかる形で倒れる。そして彼女は、実の娘の腕の中で消滅していった。


 唖然とする紅愛に対し、伊吹は嬉々とした笑みを見せる。

「最高だね! 推しが苦しむ姿は! 良い推しを供給してもらえたよ! 伊呂波……俺様のために死んでくれてありがとう!」

 そう叫んだ彼の真意は、紅愛にはわからない。その上、今の彼女には怒号をあげる気力すらない。

「オレは……実母を殺したのか……」

 そう呟いた紅愛は、妙な哀愁を帯びた横顔をしていた。

「そうだ。その上、お前は実母の借金を相続することになる」

 そんな冷たい現実を突きつけた伊吹は、恍惚とした表情をしていた。

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