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親子の再会

 数日後の夕方、紅愛(くれあ)花凛(かりん)はアパートの一室にて、ペペロンチーノを食べていた。

「花凛、学校は楽しかったか?」

「うん! 楽しかった! 友達とねぇ、一緒に絵を描いてねぇ、怪獣をやっつける魔法少女を描いたんだよぉ!」

「そっか。楽しんでいるようで、何よりだ。オレにも、後で見せてくれよ……花凛の描いた絵」

 そんな会話を弾ませつつ、二人はフォークに麺を巻き付け、それを口に運んでいく。そんな平和な時間を噛みしめ、紅愛は屈託のない笑顔を浮かべていた。


 その時、彼女たちの住むワンルームの扉が、何者かによって強くノックされた。

「開けろ! 今すぐだ! ツラを貸せ!」

 その場に不穏な空気が立ち込めた。花凛が怯える中、紅愛は真剣な顔つきで扉を開く。そこに居たのは、二人の男と、彼女の母親だった。

「お前が佐渡紅愛(さわたりくれあ)か?」

 男のうちの一人が訊ねた。紅愛は彼を睨みつけ、強気な態度を見せる。

「ああ、そうだ。それで、用件はなんだ?」

「お前の母親――伊呂波(いろは)が、まるで金を返そうとしねぇ! 娘のお前がどうにかしろ! 紅愛!」

「はぁ? オレになんの責任があるって言うんだよ! オフクロの面倒事に、オレたちを巻き込むんじゃねぇ!」

 両者の怒号は部屋に響き渡り、花凛を怯えさせる。彼女は涙をこぼし、二人を落ち着かせようとする。

「やめて! 怒らないでよ! お姉ちゃんも、おじさんも、怖いよ!」

 妹の涙交じりの訴えを聞き、紅愛は我に返った。彼女は震える握り拳を降ろし、深いため息をつく。その場は瞬時に静まり返り、重苦しい雰囲気が漂った。


 その沈黙を破ったのは、佐渡姉妹の母親――伊呂波である。

「肝心な時に助けてくれないなんて、お前は本当に親不孝者だ!」

 債務を果たせない焦りから、彼女は半ば理性を失っていた。そんな彼女に対し、紅愛は憎悪を籠めた目を向ける。

「オレはアンタを親だと思ったことはねぇ」

「はぁ? 私はお腹を痛めてお前を産んだというのに!」

「オレは、アンタが避妊を怠ったから生まれてきたんだ。アンタの過ちでオレが生まれたのに、今度はアンタの別の過ちの尻拭いをしろってか? 寝言は寝て言えよ」

 どうやら、親子の仲はかなり悪いようだ。伊呂波は紅愛の頬を引っ叩き、更なる怒号を上げる。

「それが親に向かって言う言葉か!」

 この女は己の非について言及されると、自分が親であることを盾にするようだ。そんな彼女に対し、紅愛は微塵も引き下がろうとしない。

「親父と離婚して以来、アンタはずっとホストクラブに狂ってきた。アンタは若い男の体に執着し、親父の血の流れているオレたちを腫れ物扱いしてきた。だからオレはずっと、アンタのいる生活から逃げたかったんだ。二度とそのツラを見せるんじゃねぇ」

 その口から語られた家庭環境は、あまりにも劣悪なものだった。睨み合う親子の間には、見えない火花が散っていた。そんな両者の間に割って入り、二人組の男は言う。

「とりあえず、先ずは金を払ってくれねぇか? そうしてもらわないと、ワシらも帰れねぇんだ」

「そうだ! 金だ金! 早く出せ!」

 無論、今の紅愛は酷く苛立っている。そんな彼女の神経を逆撫ですることは、あまり賢明ではないだろう。彼女は男たちを部屋の外に突き飛ばし、それから実母である伊呂波の身も放り投げた。紅愛の力強さを前にして、三人は驚きを隠せなかった。それからすぐに、紅愛は扉を閉めきり、大声をあげる。

「少なくともこの国の法律じゃ、債務者の子供に返済義務なんかねぇんだよ! アンタらの問題は、アンタらでどうにかしろってんだ!」

 一先ず、彼女がこの件に関与する必要はなさそうだ。その背後では、花凛が大粒の涙を流している。

「大丈夫だからな、花凛。アンタは、オレが守る」

 そう呟いた紅愛は、花凛を優しく抱きしめた。

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