遊園地での戦い
ヒロは剣を振り、円弧上の炎を飛ばした。鈴菜は星型の光を飛ばし、紅愛は光線銃からビームを発射した。三人に取り囲まれている天真は、その場から跳躍して攻撃をかわす。直後、彼は四方八方に糸を放った。迫りくる糸をヒロが切り落としていく最中、鈴菜と紅愛は必死に他の糸を撃ち落としていった。何やら彼らも、僅かではあるが天真と戦うことに慣れ始めているらしい。しかし三人が束になってもなお、彼を追い詰めるのは容易ではなさそうだ。
「それがキミたちの全力かい? 欠伸が出るね」
余裕綽々とした挑発をした天真は、妖艶な笑みを浮かべていた。彼が次々と糸を放つ中、ヒロたちはその糸を切り落としたり、あるいは撃ち落としたりしていく。もはやヒロたちは、防戦一方だ。
「天真……俺たちの敵はヴィラン、そしてマリス団だ! 今の俺たちが争っている場合ではない!」
この期に及んで、ヒロは説得を試みた。無論、彼の言葉は、天真の胸には響かない。
「ウィザードは、ボク一人で良い。ボク一人だけが輝くのなら、他に何も望まないさ」
「ふざけるな! 俺たちは、善良な市民の命を背負っているんだぞ!」
「市民の命は、ボクが預かろう。ボクも国に実力を認められた暁には、皆の税金でウィザードをやろうと思っているからね」
天真の言葉の一つ一つは、ヒロたちの神経を着実に逆撫でしていく。そんな彼の言動に対し、紅愛は憤る。
「社長がアンタをクビにした理由が、よくわかったよ!」
その手に握られた光線銃の銃口に、赤い光が束ねられていく。そして彼女がトリガーを引いた瞬間、凄まじい火力のビームが発射された。
「……!」
咄嗟の判断により、天真は糸を編んだ防壁を作り出した。光線は防壁の表面をじわじわと焼き、火花を散らしている。そこで今度は、鈴菜が動く。
「ウチらの連携に、たった一人のアンタが敵うはずはねぇッスよ!」
糸の防壁の表面に、彼女は無数の星型の光を撃ち込んだ。天真の視界が砂煙に塞がれる中、彼のすぐ目の前にはヒロが迫っている。
「終わりだ……天真!」
そう叫んだ彼は、炎をまとった剣を勢いよく振り下ろした。円弧を描く炎は、その火力を増しながら天真の身を焼いていく。灼熱の炎と煙に包まれ、彼の姿は見えない。それでもヒロは、勝利を確信している。
「観念しろ!」
ヒロたちの目の前で、砂煙が宙に消えていった。しかしその場にあったものは、糸で作られた繭だった。その繭を破って姿を現したのは――
「そんな攻撃で、ボクを倒せると思ったのかい?」
――無傷の天真であった。ヒロたちがあれほどの手の尽くしてもなお、眼前のウィザードにはまるで通用していない。その事実に目を疑い、彼らは騒然とするばかりだ。
「そんな……馬鹿な……」
狐につままれたような顔で、ヒロは立ち尽くした。やはり今の彼らには、勝算などないのだろう。そこで鈴菜は提案する。
「あれだけのことをやったのに、まるで効いてねぇッス! ヴィランもなかなか来ねぇし、一先ず撤退すべきッス!」
確かに、無駄な争いに労力を割くことは賢明ではない。されど、今この場にいる者たちは皆、ウィザードだ。更に、ヒロ、紅愛、天真の三人は、何かに気づいている。それを最初に口にするのは、紅愛だ。
「待て……鈴菜。逢魔の魔力を感じるぞ……すぐ近くだ! 他にもヴィランがいる!」
その魔力を感じ取っていた三人は、一斉に近くに倒れている着ぐるみを睨みつけた。着ぐるみは徐に動き出し、自らの被り物を外す。
「あーあ、やっぱりバレちゃったかぁ」
――逢魔の登場だ。彼がフィンガースナップをするや否や、その場には象型のヴィランが姿を現した。今度こそ、ウィザード同士で争っている場合ではないだろう。四人のウィザードはすぐに身構え、臨戦態勢に入った。