表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/116

変装

 ヒロはワックスを使い、髪をオールバックに固めた。彼は黒いスーツとサングラスを着用しており、その身なりからはどことなく怪しさがにじみ出ている。一方、鈴菜(すずな)はスプレーで髪を金色に染め、黒いマスクとヒョウ柄のジャケットを身に着けていた。残る一人は、紅愛(くれあ)である。女性用のロッカー室の前で、ヒロたちは彼女を待った。そして扉から姿を現したのは、茶色いポニーテールとフリル付きのワンピースが似合う麗人だった。

「おい……なんでオレがこんな格好をさせられてるんだ?」

――紅愛だ。ヒロと鈴菜は目を合わせ、それからもう一度扉の方へと目を遣る。眼前の美女はいかにも女性的な服に身を包んでいるが、その不服そうな表情は紛れもなく紅愛のものであった。変装することを提案したのは彼女自身だが、その衣装を選んだのは本人ではないらしい。

「紅愛さん、美人じゃねぇッスか! ウチの見込んだ通りッスよ!」

 思わず、鈴菜は本心からの感想を口にした。一方で、依然として平常心を保っているヒロは、一つ余計なことを言う。

「表情が硬いぞ。怪しまれたらどうするんだ?」

 幸い、彼の生真面目な性格は、彼自身の今の服装によく似合っていた。しかし紅愛だけは、妙な違和感を醸し出している。その顔立ちは整っているが、やはり不本意に服を着飾る者もそうそういないだろう。

「わかったよ……やってやるよ」

 紅愛は深呼吸し、なんとか平常心を取り戻した。それだけでは、ヒロは納得がいかない様子だ。

「変装中は、女らしく喋った方が良い」

「え、ええ……わ、わかり……ましたわ」

 そう答えた紅愛は、妙にぎこちなかった。



 こうして変装を終えた三人は、ドリームランドに赴いた。物陰で息を潜める彼らの目に飛び込んできたのは、ドーナツを頬張る天真(てんま)の姿だった。その瞬間、ヒロは逢魔(おうま)の目論見を察する。

「おい。逢魔の狙いって、俺たちと天真を戦わせることじゃないのか? 案外、ヴィランを撒くこと自体が嘘かも知れないぞ」

 自分たちの存在を天真に悟られぬよう、ヒロは小声で呟いた。確かに、このまま逢魔がヴィランを放たない可能性は大いにあるだろう。されど、彼が行動を起こす可能性もゼロではない。ヒロに対し、鈴菜と紅愛はこの場に留まることを促す。

「それはまだわからねぇッスよ。少なくとも、今日一日は様子を見るべきッス」

「そうよ。私たちは変装しているんだもの。きっと大丈夫よ」

「フフッ……紅愛さんのその喋り方、なかなか慣れねぇッスね」

「う、うるさいな。アンタこそ、喋り方を普段と変えた方が良いだろ……」

「おっす……じゃなくて、そうだね」

 このままでは先が思いやられるだろう。ヒロは頭を抱え、深いため息をついた。


 その直後のことである。

「ウィザードの魔力を感じるね。これが逢魔の策略かぁ……乗ってあげても良いか」

 突如、天真は独り言を呟いた。それから彼は変身し、ヒロたちの方へと駆け寄った。このままでは、三人は天真と戦うことになる。


 そこでヒロは、別人を装い始めた。

「おや、どうしましたか? 私たちに、何かご用でも?」

 そう訊ねた彼の声色は、普段より遥かに低い声だった。彼に続き、鈴菜は低い声、紅愛は高い声で話す。

「私たち、観光客なんです。この辺のことは、よく知らないんです」

「それでも良ければ、力になれるかはわかりませんが……何かお手伝いしましょうか?」

 三人はあくまでも、演技を続けるつもりだ。そんな彼らに対し、天真は言う。

「やあ、ヒロ。鈴菜。紅愛。変装しているところ悪いけど、ボクはキミたちの魔力をちゃんと感じ取れるよ」

……どうやら、三人が変装していたことは完全に無意味だったようだ。

「穏便に済ましたかったが、止むを得ないな」

「変身!」

「変身!」

 ヒロたちは変身し、すぐに身構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ