次の作戦
数日後、マリス団の四人はまたもや会議を開いていた。ヒロたちを成長させるにあたって、逢魔には一つ案がある。
「天真は今、誰の味方でもない。つまりアイツは、テクノマギア社のウィザードどもとも対立しているわけだ」
何やら彼は、天真に目をつけたようだ。そんな彼の思惑を察し、晴香は笑う。
「つまり、天真とテクノマギア社のウィザードたちを戦わせ、各々のウィザードレベルを成長させる……ということかしら」
「ああ、そんなところだ。しばらくはまた退屈しそうだけど、異論はないよね?」
「私は賛成よ。千郷がどう思うかはわからないけど」
戦力としては頼もしい千郷も、計画を進める上では邪魔になる。二人は彼女の方へと目を遣り、その顔色をうかがった。千郷はテキーラを一気に飲み干し、空になった瓶を投げ捨てた。瓶は床に叩きつけられ、粉砕した。
「百歩譲って、アイツらを成長させること自体は名案だとしよう。その間、アタイはどうすれば良い? イライラしてきたぞ」
案の定、彼女は目先の快楽に囚われていた。続いて逢魔は、伊吹の方へと目を向ける。
「伊吹。お前はどう思う?」
もはや千郷に構っていては、会議は進行しない。ゆえに逢魔は彼女を無視したが、それもまた賢明な判断とは言い難いだろう。
「無視するな!」
激昂した千郷は、テーブルに足を乗り出して前方へと飛び出した。しかし彼女の拳を食らう前に、逢魔は瞬間移動で攻撃をかわしてしまう。
「落ち着けって、千郷。これはお前のためでもあるんだぞ? 弱い相手をいたぶっても、お前は満足しないんだろ?」
「今この瞬間の苛立ちは、今しか発散できないんだよ。別にテメェがアタイに殴られたところで、計画に影響は出ないだろ」
「そう言うな。大人しく待て。俺が全部調整してやってるんだからさ。それで、伊吹はどう思う?」
次々と迫りくる拳を瞬間移動で避けつつ、彼は質問を続けた。伊吹は不気味な笑みを浮かべ、己の考えを語り始める。
「弱い推しが死ぬよりも、強い推しが死ぬ方が俺様は嬉しい。ただ弱いから苦しむのではなく、強さの中に弱さを抱えているがゆえに苦しんで欲しい。それが俺様の求める佐渡紅愛だ。俺様は情緒を揺さぶられたい。甘美な刺激が欲しい。ドラマチックな人間のドラマチックな死に様で、ポップコーンを食べたい。コーラも飲みたい。俺様だけじゃない。世間がエンタメを望んでいるんだ。数多の試練に立ち向かう者たちの生き様、そして死に様は、退屈という病に効く特効薬なんだ」
この時、彼に発言権を与えたことを、逢魔は酷く後悔した。
「お前はそればっかだね、伊吹。賛成か反対か、一言で答えてよ。いい加減にしないと、流石にキレるよ」
「すまない、つい話し過ぎてしまった。しかしお前たちにもわかるはずだ。死に抗う者たちの姿は最高の見世物であると。一人の一生が大多数の一瞬の感動に使われ、次は別の誰かの一生が新しい感動を生む。エンタメを愛する者たちの世界は、はるか昔からこのように回ってきて……」
「俺の話、聞いてた? さっきから、お前一人だけ喋りすぎなんだよ。それも、会議や俺たちの活動に関係のないことをペラペラと……」
怒りを通り越し、もはや彼は呆れるばかりだった。そんな二人のやりとりを面白がり、晴香は笑っている。一方で、千郷はまだ苛立っているのか、己の爪を噛んでいる様子だ。逢魔は深いため息をつき、彼女に言う。
「千郷。一回だけ、伊吹をボコボコにする権利をやるよ」
流石の彼も我慢の限界だったのだろう。これで二人の利害は一致した。
「伊吹ィ……テメェなら、アタイを楽しませてくれそうだ」
舌なめずりをした千郷は、伊吹の方へとにじり寄った。そして数瞬の沈黙の後、彼女は伊吹を殴り飛ばした。




