幹部たち
その頃、逢魔はとある廃墟の倉庫にいた。そこには四つの椅子に囲まれた大きなテーブルがあり、三人の人物が彼を睨みつけていた。
「テメェばっか面白そうなことしやがって、イライラしてきたぜ……」
最初に不満を口にしたのは、SM嬢のような衣装に身を包んだ女だ。彼女は目つきが悪く、マゼンタ色の頭髪をしている。その容姿と言動から、彼女は妙な荒々しさを醸し出している。そんな彼女をなだめるように、逢魔は言う。
「まあまあ、千郷。俺だって、このままじゃ皆が退屈しちゃうのはわかってるよ。だから、今から話し合うんだよ。これからどう動けば、面白おかしくなるのかを……ね」
彼は同意を求めるような眼差しで、残る二人の人物に目を遣った。一人は気品の漂う黒髪の美女で、もう一人はいわゆるヴィジュアル系と形容されるような容姿をした男だ。黒髪の女は、正気とは思えない発言をする。
「ワタシは早く、嫌いなものを見つけて壊したいわ。ワタシの視界に嫌いなものが映ったら、それはワタシのせいじゃないもの。ワタシには、ワタシの嫌う全てを壊す権利があるのよ」
その言葉に、逢魔は苦笑いするばかりだ。
「ま、まあ……なんでも壊してくれて良いけどさ。晴香には何か、好きなものはないのかい?」
「そうねぇ、鈴菜ちゃんは、眼鏡さえかければ完璧だと思うわ。あの子は絶対に、眼鏡が似合う子だと思うの」
「はぁ……俺の組織にはろくな奴がいねぇな。おい伊吹、お前は何かあるか?」
彼はすっかり呆れ果て、残る一人に目を向ける。伊吹はどこか狂気的な笑みを浮かべ、早口で己の願望を口にする。
「俺様は紅愛の――推しの死ぬ姿が見たい。だけど、雑に死なれたら解釈違いだ。意味のある絶望に見舞われて、意味のある死を迎えて欲しい。それで俺様の推しは完成するんだ。推しだからこそ死んで欲しい。だけどそれは、ただ心肺停止に陥って欲しいのではなく、自分で殺したいわけでもなく、美しい死を作り上げたいということだ。推しの死に呆れるのではなく、推しの死に情緒を揺さぶられたい。わかるか? お前たちに、俺様のこの想いがわかるか?」
当然ながら、彼の話した内容の半分以上は、逢魔たちの耳をすり抜けていった。逢魔は深いため息をつき、話を仕切り始める。
「伊吹、お前の支離滅裂な趣味の話なんか誰も興味ないんだよ。俺たちは今、戦いに飢えているんだ。そうだろ?」
そう訊ねた彼は、周囲を見渡した。残る三人は、次々と頷いていく。特に、千郷は心の底から闘争を望んでいるようだ。
「なあ逢魔。もしムカついたら、アタイがウィザードをブチ殺しても構わねぇよな?」
「ダメだよ、せっかくの玩具を壊したらもったいないじゃないか」
「だったらテメェがアタイと戦えば良いだろ。アタイはなァ! なんでも良いからブチ殺してぇんだよ! 例えそれが、ヴィランだったとしてもな……」
並々ならぬ攻撃性である。そんな彼女を前にして、逢魔は依然として苦笑いを浮かべていた。その一方で、伊吹と晴香は小声で話し合っている。
「晴香。お前の推しは、鈴菜なんだな」
「まあ、言うならばそうなるのかしらね。紅愛以外を推すのは、邪道かしら?」
「いや、それで良い。俺様は同担拒否だからな」
「アナタ……面倒くさいわね。ワタシが紅愛に興味を持たなくて、本当に良かったわ」
「紅愛は誰にも触らせたくないが、美しく殺してくれる人には殺して欲しい。ああ、ジレンマというのはこうも苦しいものなのか……」
やはりこの男は、どこか変わった考えを持っているらしい。晴香は決して言葉にしなかったが、内心彼の言動に呆れていた。
そんな二人の方に目を遣り、逢魔は歯を見せて笑う。
「そろそろ、俺たちマリス団がじきじきに動いても良いだろう」
近日中に、彼らはウィザードたちと直接戦うことになりそうだ。