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薔薇

 ヒロの周囲を囲うように、数本の木が生えてきた。真白(ましろ)の放った茨の鞭に打たれ、木々は樹液を撒き散らしながらへし折れる。そのヒロはその樹液を左腕に浴び、激痛に苦しみ始めた。

「毒……!」

 そう――植物を操れるということは、毒を用いた攻撃を行えるということだ。ヒロは右手に剣を携え、間合いを詰める。そのすぐ目の前では、薔薇型のヴィランが笑い声をあげている。

「あはは! おにいさん、だいすき! だから、いっぱいくるしめて、ころしてあげる!」

 やはりヴィランと化した一般人は、狂気じみた思考回路に陥ってしまうらしい。彼女の身は無数の茨に包まれており、ヒロはそれを次々と切り落としていく。その節度、毒性のある樹液の飛沫が舞っていく。

「流石にマトモにやり合うのは危険だが、燃やすと余計に厄介だろう」

 毒性のある植物を燃やせば、毒を含んだ煙を浴びることになる。この戦いはヒロにとって、あまりにも分の悪いものだった。それでも彼は、戦うことを諦めない。

「ならば……!」

 何かをひらめいた彼は、剣の刀身に何らかの植物をまとわせた。彼がその切っ先を茨に突きつけるや否や、真白の身は謎の植物に包まれ始めた。彼女の足取りが重くなるにつれ、その植物は勢いよく成長していく。

「やはりな……」

 そう呟いたヒロは、正体不明の植物による攻撃を続けた。


 地球上には、寄生植物と呼ばれる生物が存在する。それらの植物は他の植物と結合し、宿主の養分を吸い取る習性を持つ。


 たった今ヒロが操っているのも、寄生植物だ。正攻法で茨を破壊するのは危険だと判断し、彼は相手の体を寄生植物によって弱らせるという手段を取ったのだ。


 無論、まだ年端も行かない真白には、そこまでの知識が備わっていない。

「くるしい、くるしいよ……おにいさん……」

「すまない……俺には、君を救うことが出来なかった!」

「いやだ……たすけて……ましろをいじめないで!」

 形勢は一気に傾き、今はヒロが優位に立っている。しかし彼からすれば、これは胸糞の悪い戦いでもある。

「君が人を傷つける前に、誰かの命を奪う前に、俺は君を倒さなければならない。それが……ウィザードとヴィランの宿命だから……」

「おにいさんのいってること、ぜんぜんわかんない! ましろは、ましろはいきたいし、ひとをころしたい!」

「君は、そんなことを望む子ではなかった。俺だって、君を倒すことを望んではいない。だが……」

 彼は剣を振り続け、真白の身を寄生植物で侵食し続ける。彼は次の言葉を紡ごうと、必死に思考を巡らせる。無論、彼はいつものように迷いを抱えている。それでも今の彼には、攻撃を止める余裕などない。ヴィランとの戦いで隙を見せることは、ウィザードにとっては命取りだ。ヒロの剣にまとわりつく寄生植物は成長し、やがて一つの大樹となった。その大樹に養分を吸われ、真白は苦痛に喘いでいる。そんな彼女を睨みつけ、ヒロは叫ぶ。

「だが、俺は戦う! どんな痛みを抱えることになろうと、俺はウィザードの使命から逃げない!」

 その声は、廃屋の隅々まで響き渡った。養分を吸われ尽くした真白は膝から崩れ落ち、その場で爆発した。爆炎の隙間から、ヒロは彼女の横顔を見た。彼女の頬には、一筋の涙が伝っている。

「おにいさん、いいひとだとおもってたのに……」

 そんな遺言とともに、真白は消滅した。ヒロはズボンのポケットから、折り紙で作られた薔薇を取り出す。そして彼女を幼稚園まで連れて行った時のことを思い出し、彼は自嘲的な微笑みを浮かべた。

「せっかく力を取り戻したのに、俺はヒーロー失格だな……」

 廃屋に残された茨の残骸は、か細い炎を帯びていた。辺りに散った花弁は、真白の死を冷たく物語っていた。

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