奪還
その日の翌日、ヒロたちはテクノマギア社の社屋へと向かった。エントランスで彼らを待ち受けていたのは、意外な人物だった。
「もう少し、俺の遊びに付き合ってもらうよ」
そう言いながら三つの魔法石を見せつけてきたのは、逢魔だった。無論、ヒロたちは彼と面識がない。ましてや、今の彼は変身していない。新入りの鈴菜からすれば、逢魔がヴィランであることもわからないだろう。
しかしヒロと紅愛は、何かを感じ取っている。
「その魔力……ヴィランだな」
「ヴィランの奴が一体、なんの用でここに来た?」
何やら、ウィザードとしての経験を積んでいる二人には、ある程度ヴィランを見抜くことが出来るらしい。逢魔は肩をすくめ、話を続ける。
「せっかく天真の奴から魔法石を取り戻してやったのに、ずいぶんな言い草じゃねぇか。ま、その方が俺にとっても張り合いがあるんだけどな」
無論、この行為はヴィランにとって、自らの首を絞めているも同然だ。それでも彼は、三人に魔法石を手渡すことを選んだのだ。にわかには信じがたい選択に、ヒロは怪訝な顔をする。
「君の目的はなんだ……? 君は何故、他のヴィランのように今すぐ暴れたりしないんだ?」
そんな疑問を彼が抱くのも、至極当然のことである。逢魔はウィザードたちに魔法石を手渡し、己の思惑を語る。
「俺は逢魔――マリス団の幹部だ。俺たちの目的はただ一つ――全てを掻き乱して面白おかしく生きていくことだよ」
その言葉に、鈴菜は警戒心を露わにした。彼女はすぐに身構えたが、ヒロはそれを制止する。
「待て。まだ敵だと確定したわけじゃない。少なくとも、こいつは今暴走してはいないだろう」
確かに、逢魔は他のヴィランとは違い、どこか話の通じそうな相手だ。鈴菜はすぐに構えを解き、話が進行するのを待つ。逢魔は深いため息をつき、それから真実を明かす。
「もう良いって、そういうの。俺はヴィランで、お前らの敵だ。この街でヴィランを増やしていたのは、この俺なんだよ!」
そう語った彼は、ヒロたちに注射器を見せつけた。ヒロは怒りを覚えつつも、理性を保ちながら訊ねる。
「それで、どうして君は暴走しないんだ?」
「それは、俺のヴィラン適性が高いからだよ。適性を持たない人間は本能だけで悪事を働くけど、俺の悪事には意志が伴っている。ま、そういうことだよ」
「なるほど……とりあえずは君を倒せば、ヴィランが生まれなくなるわけか」
一先ず、十分な情報は出揃った。ヒロは即座に変身し、眼前のヴィランを睨みつける。しかし、逢魔の話はまだ終わってはいない。
「ヒロ、お前に大事な話がある」
「大事な話……?」
「ついてきな」
彼はヒロの手を掴み、瞬間移動した。二人がその場から消えた瞬間を目の当たりにし、鈴菜たちは驚きを隠せない。
「瞬間移動……? それも、変身もせずにッスか!」
「あのガキのヴィラン適性は、相当のものらしいな……」
今の彼女たちには、ヒロと逢魔の現在地を特定することが出来ない。鈴菜たちはその場に立ち尽くし、ヒロの帰りを待つばかりだ。
一方、逢魔はヒロを連れ、廃屋に姿を現した。そこでヒロは、不穏な光景を目の当たりにする。
「おにいさん! たすけて! ここからだしてよ!」
廃屋の柱に、真白が縛り付けられていた。逢魔はその真横に瞬間移動し、彼女の首筋に注射器を突き刺した。何らかの薬物を注入され、真白の目つきが豹変する。
「まずい……!」
ヒロがそう叫んだのも束の間、真白は薔薇型のヴィランに姿を変えた。目を疑う彼を前にして、逢魔は高らかに笑う。
「ヒャヒャヒャヒャ! ヒロォ! 自分で守ったガキを、自分で殺す気分はどうだ?」
「逢魔……なんてことを!」
「言っただろ? 俺はヴィランで、お前らの敵だってなァ!」
そう言い残した逢魔は、瞬間移動によってその場から消えた。