乱入
それは鈴菜たちが標的を睨みつけた直後のことだった。突如、ヴィランはどこからともなく飛んできた糸に巻き付かれ、その場から動けなくなった。ヴィランは自らの肉体を液状化し、必死に脱出を試みた。しかし次から次へと新しい糸が追加され、それらは彼女の身に巻き付けられていく。
「動けないわ! このままじゃ……私……」
もはやヴィランに、抵抗の手段はない。彼女の身を包んでいた繭は勢いよく縮小し、それから爆発した。黒い煙の中から姿を現したのは、真白の母親だ。徐々に消滅していく彼女の元へと、真白は即座に駆け付ける。
「ママ! 行かないで!」
無論、真白がいくら別れを惜しもうと、彼女の母親を救うことは出来ない。一度ヴィランになり、そして倒された以上、その者に未来などないのだ。
「ママ!」
真白は泣いていた。その光景を前にして、紅愛は深いため息をついた。一方で、鈴菜は情緒を揺さぶられ、歯を食いしばっている。
そんな二人の前に、一人の男が姿を現した。
「さあ、魔法石をいただこうか」
そう言い放った彼は白髪の髪をなびかせ、緑色の衣装に身を包んでいた。その姿を睨みつつ、鈴菜は訊ねる。
「アンタが、幽神天真?」
「ご名答。サインが欲しいのかい? 有名人はこれだから苦労するねぇ」
「ふざけねぇで欲しいッス。ヒロさんの魔法石を返せ!」
怒りに身を任せ、彼女は変身する。無論、今この場において、一対一で戦うのは得策ではない。
「鈴菜!」
紅愛は慌てて変身し、鈴菜の手首を掴んだ。紅愛の握る光線銃の銃口は、天真の方へと向けられている。彼女に迷っている暇はない。それから間髪入れずに、彼女は光線を発射した。ほぼ同時に、天真は自らの手元に一本の剣を生み出していた。剣は光線を吸収し、その刀身に炎を帯びる。無論、鈴菜たちはその剣に心当たりがあった。
「あれは、ヒロさんの……!」
「クロス・セイバーか……」
彼女たちが反応を示したのも束の間だった。天真は剣を勢いよく振り、衝撃波のような炎を放った。鈴菜たちは凄まじい爆発に呑まれ、変身を解除されながら宙に飛ばされる。この時、二人の魔法石もまた同じく宙を舞っていた。
「片方はノヴァ・マスター、もう片方はアストロロギアか……」
天真はすぐに二本の糸を放ち、二つの魔法石を回収した。その二つを己の首にかけ、今の彼は計四つの魔法石を持っている状態だ。鈴菜と紅愛の体が地面に叩きつけられたのは、その直後のことである。二人は酷く負傷していたが、まだ戦意を失ってはいない。
「返せ……ウチのノヴァ・マスターを……返せ!」
「アストロロギアは、アンタみてぇな奴が持って良い代物じゃねぇ!」
当然ながら、そんな彼女たちの言葉に耳を傾ける天真ではない。彼は遠方に見える高層ビルに向かって糸を飛ばし、それを急激に縮めることでその場を後にした。
公園付近に残された鈴菜たちは、怒りに震えるばかりだ。
「アイツ……許せねぇッス……」
「天真の奴、相当社長を恨んでるようだな」
何はともあれ、今の彼女たちには戦う術がない。鈴菜は携帯電話を開き、今回のことを日向に報告する。
「鈴菜ッス。ウチも、紅愛さんも、天真に魔法石を奪われたッス!」
この時、彼女は唇を噛みしめていた。
その頃、糸を縮小させて移動していた天真は、高層ビルの屋上に着地していた。そこで彼を待ち受けていた者は、一人の短髪の少年――逢魔だ。
「影から見ていたよ、天真。魔法石が四つあれば、俺を倒せると思ったのか?」
そう訊ねた逢魔は、邪悪な笑みを浮かべていた。
「ああ、当然だ!」
そう答えた天真は、星型の光を放った。逢魔は瞬間移動によって攻撃をかわしたが、その先で別の光に被弾してしまう。
「ふぅん、やるじゃん」
逢魔は嬉々とした笑みを浮かべ、竜型のヴィランに変身した。