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銀行

 その頃、とある銀行にて、熊のような容姿をしたヴィランがカウンターに肘をかけて立っていた。その周囲では、恐怖におののく利用客や銀行員が正座している。このヴィランの目的は、銀行強盗ではない。

「ウィザードが来るまで、ここを動くな。おれは強ぇ奴と戦いてぇんだ」

 何やら彼は、自らの意志でウィザードと戦うことを望んでいるようだ。彼の指示に従っている限り、その場にいる人々が傷つけられることはないだろう。言うならば、彼らはこのヴィランの人質である。


 そこに駆け付けたのは、先ほど出撃命令を受けたヒロだ。

「変身!」

 すぐにウィザードへと変身し、彼は己の手元に剣を構えた。


 その時である。

「キミの出番はないよ……ヒロ」

 そんな声がしたのと同時に、一本の糸がヒロの身に巻き付いた。ヒロが辺りを見回すと、すぐ近くには白髪のウィザードが立っている。

「誰だ……お前は……」

「ボクをご存知でない? ボクは最強のウィザードにして、日本を守るヒーロー――幽神天真(ゆうがみてんま)さ。以後、お見知りおきを」

 そう答えた天真は、人質たちに向かってウインクをした。ヒロはその光景を前に呆れていたが、糸に拘束されてその場から動けない。そればかりか、彼の体の節々からは煙が発生している。

「体が……熱い。一体、何をした?」

「ボクのアラクノ・ネストは、粘着力を持つ糸を操れる魔法石なんだ。こいつが衣類などの布に付着すると、毛細管現象によってその成分が繊維に急激に浸透する。それに伴い、繊維が急激に硬化し、化学反応にとって高熱が発生するんだよ」

「なるほど、君は糸状に束ねた瞬間接着剤を操れるようなものなのか……」

「ご名答。さあ、後はボクに任せると良い」

 天真は妙に強気だ。ヒロの身を拘束した彼には、たった一人で眼前のヴィランを倒せる確固たる自信があるらしい。その余裕綽々とした態度を前に、ヴィランは若干の苛立ちを見せる。

「おれも、なめられたものだな! だが、おれの鎖に対処できるかな?」

 そう訊ねた彼は、周囲に無数の鎖を生み出した。そのうちの一本が、天真の身に巻き付こうとする。

「ああ、出来るさ」

 得意気にそう答えた天真は、即座に糸を操り始めた。糸は鎖を巻き込んでいき、大きな繭と化していく。そして天真は笑い、その繭をヴィランの身に叩きつけた。ヴィランは後方へと突き飛ばされ、壁を突き破りながら銀行の外に出る。そんな彼の身は、一瞬にして新しい糸に巻き付かれた。その糸に勢いよく締め付けられ、彼の身は圧縮されていく。そして――


「この、おれが……!」


――ヴィランは勢いよく爆発した。天真の圧勝だ。この戦いにおいて、彼は微塵も傷を負っていない。

「さあ、これで全てが片付いたね。さて……と」

 天真の仕事はまだ終わっていない。彼は再び銀行に足を踏み入れ、全身を拘束されたヒロを睨みつける。化学反応による高熱に苦しんでいるヒロは、己の全身にノイズを走らせながら相手を睨み返す。彼の変身が解けるのも、もはや時間の問題だろう。どのみち、彼に抵抗の手段はない。そして案の定、ヒロは力尽きたように変身が解けてしまう。

「何を……する気だ!」

「この魔法石は、クロス・セイバーか。こいつは貰っておくよ……ウィザードはボク一人で十分だからね」

「よせ! やめろ!」

 ヒロはそう言ったが、天真はまるで聞く耳を持たなかった。天真に魔法石を奪われるや否や、ヒロの変身は即座に解けてしまう。ウィザードが変身するには、魔法石の存在が不可欠らしい。

「じゃあね、ヒロ。今日でキミも、ウィザードを引退だ」

 そう言い残した天真は、銀行に背を向けてその場を去った。彼の魔術が解け、その場に張り巡らされていた糸は消えたものの、ヒロは膝から崩れ落ちた。

「俺の……魔法石……が……」

 ヒロはその場に倒れ、そのまま気を失った。

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