ウィザーズ・イン・ザ・シティ
高層ビルの屋上で、激しい爆発が起きた。爆炎と煙の中に、一つの人影が見える。鈴菜と天真は息を呑み、そして目を凝らした。二人の前に姿を現したのは、変身の解けたヒロだ。その足下で、同じく変身の解けた逢魔が倒れている。彼の体はほのかに光を帯びており、徐々に透明になっていく。
「ありがとう……ヒロ、そして皆。お前らとの日々は……楽しかったぞ」
そう呟いた彼は、安らかな微笑みを浮かべていた。鈴菜はその場に膝をつき、そして泣き崩れる。そんな彼女の背中をさすりつつ、紅愛は神妙な顔つきで彼を見つめる。逢魔が完全に消えるまで、ウィザードたちに残された時間はごくわずかだ。そこでヒロは、彼と最後の会話を交わす。
「俺たちも、楽しかったよ。つらいこともたくさんあったけど、君はこれからもずっと、俺たちの仲間だ」
「ああ、当然だ。今度は普通の人間に生まれ変わって、俺はまたお前らと会いたい。俺だけじゃなくて、晴香も、千郷も、伊吹も一緒に生まれ変わってさ……今度は真っ当な道を歩んでいくんだ」
「逢魔……」
「しけたツラするなよ。これでも俺は、嬉しいんだぞ? 最後にお前と戦えて、お前らに囲まれて。ずっと罪を重ねてきたはずなのに、俺はこんなにも幸せ者なんだなって……」
「そうだな。最後くらい、君を笑って見送らないとな」
その瞳に涙を浮かべつつ、ヒロは頬を綻ばせた。そんな彼の目の前に、逢魔の握り拳が差し出される。体が限界を迎えているのか、その拳は酷く震えていた。そんな逢魔の拳に、ヒロは己の拳を軽く当てる。ハジメを含め、周囲の者たちはその光景に見とれるばかりだ。
「ヒロ。お前は最高のライバルにして、最高の相棒だ」
逢魔はそう言い残し、笑顔でこの世から消滅した。
*
翌日、ヒロはいつもの公園のベンチで物思いに耽っていた。そんな彼を見つけたのは、鈴菜である。
「どうしたんスか? ヒロさん。悩みごとは隠さねぇで欲しいッス。ウチら、仲間じゃねぇッスか」
彼女が仲間を気に掛けるのは相変わらずだ。ヒロは深いため息をつき、そして己の抱える悩みを打ち明ける。
「俺たちは、もう戦わなくて良い。俺はほっとしたし、世界が平和であるに越したことはないと思う」
「うん」
「だけど、これからの俺はどうやって生きていけば良いんだろうな」
世界が平和を取り戻したことにより、彼は己の存在意義を見失っていた。そんな彼の横に腰を降ろし、鈴菜は青空を見上げる。
「酔生夢死の人生も、存外悪くねぇもんッスよ。仲間と共に笑える限り、人生は上等ッスから!」
「鈴菜らしい考えだな。だけど、確かに君の言う通りだ。仲間と一緒にいると、『俺は生きていても良いんだ』って思えてくる」
「それなら、ウチらはこれからも、ずっと一緒ッスよ!」
彼女の人生観は、ヒロにとっての最大の救いだ。今まで、彼は幾度となく彼女の言葉に救われてきた。そんな二人が話をしているところに、三人の人物が顔を出した。紅愛、天真、そしてハジメだ。紅愛はベンチの後ろに回り、ヒロたちと肩を組む。
「ああ、オレたちは、ずっと一緒だ」
彼女の後に続き、天真も言う。
「ボクたちに乗り越えられない壁なんかない。ボクたち五人は、最強のメンバーだ」
その言葉に耳を疑い、ハジメは彼の方へと振り向く。
「五人……?」
「ああ。今日からキミも、ボクたちの仲間だ。頼りにしているよ……ハジメ」
「仲間……」
そう呟いたハジメは、喜びに満ちた笑みを浮かべた。
ヒロは魔法石を手に取り、それを天にかざす。
「俺、生まれてきて良かったよ。生きてきて、本当に良かった」
その一言はまさしく、鈴菜の聞きたかったものであった。
「ヒロさん。生まれてきてくれて、ありがとうッス! 生きていてくれて、本当にありがとうッス!」
彼女がそう言った直後、その場は満面の笑みで溢れかえった。