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削除

 ハジメの心が大きく揺さぶられたことにより、現実にも変化が現れた。ホログラムの画面には、「無敵.exeを削除しました」と表示されている。

「そんな……馬鹿な……!」

 突然の出来事に、ハジメは驚きを隠せなかった。彼の主人格はまだ、人々を苦しめることを望んでいるのだろう。そんな彼も、今は無敵ではない。ヒロたちは互いに目配せをし、そして動き出した。


 先ずは鈴菜(すずな)が、ガンマ線バーストを放った。続いて、紅愛(くれあ)がハジメの身に全力の飛び蹴りを食らわせる。今度は天真(てんま)が彼の体を波で硬化させ、その体を糸で締め付ける。その直後、瞬間移動によって間合いを詰めた逢魔(おうま)が、ハジメの身に強烈なラッシュ攻撃を叩き込んでいく。ハジメは今まさに、絶体絶命だ。

「こんな……はずでは……」

 肩で呼吸をしつつ、彼は全身から血を流している。一方で、彼の敵対者たちはこの好機を逃しはしない。

「今だ! やれ、ヒロ!」

 逢魔は叫んだ。ヒロは深く頷き、己の右手に携えている剣に黒いエネルギーをまとわせる。その刀身には、黒い稲妻のようなものが音を立てて走っている。

「これで、ようやく終わるんだな……俺たちの戦いは!」

 そう呟いた直後、ヒロは剣を勢いよく振り下ろした。その刀身から放たれた黒い円弧の周囲では、空間が歪んでいる。

「くっ……体が……動かない……!」

 粘着力を持つ波に体を硬化されているハジメには、この攻撃をかわすことが出来ない。黒い円弧は彼の身に直撃し、勢いよく爆発した。


 次第に収まっていく爆炎と煙の中から、満身創痍のハジメが姿を現した。彼の全身にはノイズが走っているが、まだ変身は解けていない。眼前の敵対者たちに、何かを諦めたような眼差しを向け、彼は呟く。

「世界には、幸福を許されない命が生じる。終わらせることでしか救えない……命が……」

 続いて、ハジメは己の震える指先をホログラムの画面へと伸ばした。この光景を前に、紅愛は憤る。

「ダメだ、ハジメ! そんなことはさせねぇぞ!」

「……僕は貴方たちの敵だ。貴方たちだって、僕が『消えること』を望んでいるはずだよ」

「オレたちは、命を奪うためでなく、守るために戦ってきたんだ! だからアンタのことだって、オレたちは守ってやる!」

 少なくとも、ハジメが何か良からぬことを実行しようとしていることだけは確かだ。そして、アカシック・ラプラスを使える紅愛だけがその内容を把握している。そんな彼女に対し、ヒロは問う。

「なあ、紅愛。コイツは一体、何をしようと……」

「ハジメの奴は、自分自身を削除しようとしている。自分と同じ痛みを誰かに背負わせても救われないとわかった今、アイツの思い描く唯一の救いは……死ぬことなんだ」

「なんだと……!」

 ハジメとて、一人の人間だ。それゆえに、膨大な痛みを抱えて生きることは、彼にとっても耐え難いことである。


 その時だった。


 突如、鈴菜はハジメの身に抱き着いた。唖然とする彼を前に、彼女は涙声で話し始める。

「死ぬなんて言わねぇで欲しいッス! ハジメはずっと苦しい想いを抱えてきたけど、まだ楽しいことを全然試してねぇじゃねぇッスか! ピクニックとか、カラオケとか、遊園地とか、この世にはまだまだ楽しいことがたくさんあるんスよ!」

「鈴菜……」

「ウチが、アンタの友達になるッスよ。今までのつらいことも、これからの楽しいことも、全部全部、ウチと分かち合っていけば良いんスよ!」

 無論、ハジメの脳には鈴菜の記憶も移植されている。ゆえに彼は、友の温もりというものを少し理解していた。

「鈴菜……ありがとう。僕にはわかる……貴方は、そんな嘘をつくような人間なんかじゃないと」

 気づけば、ハジメの目からも涙が零れていた。その光景に、ヒロたちは胸を打たれるばかりであった。

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