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覚悟

 粉砕した岩石の後方から、変身の解けた紅愛(くれあ)が姿を現す。彼女は歯を食いしばり、己の全身にノイズを走らせながら変身を試みる。彼女は酷く出血しており、肩で呼吸をしている有り様だ。そんな彼女の目の前に、また一つ巨大な岩石が迫ってくる。この攻撃に対応できなければ、今度こそ彼女は命を落とすこととなるだろう。しかし、紅愛という女に退路はない。彼女は眼前から迫りくる岩石を睨みつけ、光線銃を構えた。


 その直後だった。


 何者かの手により、岩石が切り刻まれた。そして辺りに散った断片は、星型の光によって撃ち落とされた。その場に姿を現したのは、変身した姿のヒロと鈴菜(すずな)である。

「無茶するな! 紅愛!」

「ウチらだって、ウィザードなんスよ!」

 二人はすでに臨戦態勢だ。しかし紅愛は、まだ戦意を失ってはいない。

「このケーキ屋は、オレの妹のお気に入りなんだ。それに、今日はアイツの誕生日だ。オレが、このケーキ屋を守らねぇといけねぇんだ!」

 そんな想いを口にした彼女は、迷うことなくヴィランの方へと駆け寄った。ヒロは彼女の背に目を向け、大声を張り上げる。

「ケーキ屋は、俺たちに任せてくれ!」

 彼に続き、鈴菜も言う。

「先ずはアンタが無事じゃねぇと、妹さんにとって最悪の誕生日になるッスよ、お姉さん」

 何はともあれ、これで戦況は、紅愛に有利なものとなった。彼女は無言で頷き、安堵の笑みを浮かべた。彼女は先ず、眼前の標的に右ストレートを放つような挙動を見せた。しかしその一撃は、ヴィランの身に当たらない。先ほどまで相手の動きを読んでいたはずの紅愛に限って、攻撃を外すことはないはずだ。この一瞬、ヴィランは困惑していた。そんな彼の顔面に、強烈な裏拳が炸裂する。

「そう来たか……!」

 そう――あれは右ストレートに見せかけた裏拳だったのだ。戦いにおいて、あえて攻撃を外すことによって生じる隙もあるのだろう。それからも紅愛は、ヴィランに強烈なラッシュを叩き込んでいく。その挙動の全てが、彼の動きを読んだ上での動きだ。

「オレを怒らせたこと、後悔しな!」

 数多の拳法と柔術を駆使し、紅愛は徐々に標的を追い込んでいる。無論、今この場で戦っているのは彼女だけではない。ヒロと鈴菜も、迫りくる岩石から依然としてケーキ屋を守り続けているのだ。ただし鈴菜は、半ば紅愛の戦いに見とれている。

「紅愛さん……すっげぇ強ぇッスね……」

「よそ見してる場合か! 今は、俺たちに出来ることをするんだ!」

「おっす! 了解ッス!」

 無論、それで今日中にケーキが用意できる確証はない。この騒ぎの中であれば、店員たちがどこかに逃げ出していることも考えられるだろう。それでも、ウィザードたちは希望を捨てはいない。特に、紅愛は自分が負けた時のことをまるで考えていないのだ。一方で、窮地に陥ったヴィランは必死だ。

「負けてなるものかぁ!」

 そう叫んだ彼は、紅愛の頭上に無数の岩石を降り注がせた。紅愛は蹴り技で彼への攻撃を続けつつ、全ての岩石を光線銃で撃ち落としていく。

「……アンタ、さっき言ってたよな? オレには守るべきものがたくさんあるって」

「あ、ああ……そうだ。それが一体、どうしたっていうんだ?」

「誰かを、何かを、本気で守ろうとする覚悟……確かに、厄介なもんだよ。おかげでオレは死にかけたからな」

「はは……そうだ、そうだろう! 闘争において、そんな覚悟は邪魔でしか……」

「それでも! この覚悟があったから、オレはここまで戦ってこれたんだ!」

 一発、また一発と、彼女の攻撃がヴィランの身を抉っていく。肘打ちや膝蹴り、かかと落としなど、あらゆる手段を行使し、彼女は着実に標的を追い込んでいく。

「これで終わりだ! 化け物!」

 そう叫んだ紅愛は、眼前のヴィランに強力な飛び蹴りをお見舞いした。

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