レベル
あれから一週間後、四人のウィザードたちはマリス団の拠点で目を覚ました。彼らはベッドから起き上がり、先ずは己の手首や指先を動かしてみる。ハジメとの戦闘で酷く負傷していたヒロたちは、この場所で回復していったようだ。
そんな彼らの看病をしていたのは、逢魔だ。
「そろそろ、戦線に戻っても良さそうだな」
彼はそう言ったが、ここにいる全員がハジメの強さを理解している。今の彼らが束になっても、あの少年を倒すことは出来ないだろう。
そこで天真は話を切り出す。
「今のボクたちでは、ハジメに勝つことは出来ない。彼との決着をつける前に、ボクたちは各自レベルを上げておく必要がある」
無論、そんなことはわかりきっている。しかし多少レベルを上げたところで、彼らがあの強敵に敵うことはない。それは目に見えていることである。鈴菜、紅愛、逢魔の三人は、口々に反論を述べる。
「だけどアイツの生み出す魔物を倒していく程度じゃ、十分なレベル上げは出来ねぇッスよ」
「その通りだ。オレたちはアイツを倒すべきだが、先ずは何らかの戦略を練っておくべきじゃねぇのか? 例えば、こう……アイツの弱点を調べるとか」
「あるいは、アイツの活動拠点を調べ上げ、奇襲を仕掛けるとか?」
確かに、あの少年は正攻法で倒せるような相手では無さそうだ。しかし天真とて、決して計画性を持ち合わせていないわけではない。
「何か考えがあるんだろ? 天真」
ヒロは訊ねた。天真はベッドの脇に置かれたアタッシュケースを開き、かつて日向から受け取った強力な魔法石のうちの一つを手に取る。
「これらの魔法石を使えるようになるまで、ボクと勝負だ。ボクたちが強くなるには、互いと戦い、そして競い合うしかない」
それが彼の考えだ。しかし彼らも、この倉庫を破壊するわけにはいかないだろう。
そこで逢魔は提案する。
「……戦争で崩れ去った街の跡地に向かうぞ。そこでなら、思い切りやり合える」
その提案に、ウィザードたちは深く頷いた。逢魔が手を差し出すや否や、彼らはそこに自分の手を重ねていった。そんな彼らを連れ、逢魔は瞬間移動した。
こうして五人は、あの瓦礫の海に到着した。トレーニングを始める前に、天真は仲間たちに指示を出していく。
「鈴菜、紅愛。キミたちは二人がかりでボクを倒すんだ。その間、ヒロには逢魔と戦って欲しい。相手の変身を解いた方の勝利だ」
いよいよ、トレーニングが開始された。五人は一斉に変身し、各々の競争相手に攻撃を仕掛けていく。ヒロは剣術を発揮し、剣の刀身から炎や電流を放っていく。それに応戦するように、逢魔は瞬間移動を交えた体術で彼に攻撃していく。その傍らで、鈴菜と紅愛は巨大な糸の人形に翻弄されつつ、各々の武器を連射する。それぞれの陣営の力は拮抗している。やはりこの五人が競い合うのは、彼ら自身のレベルを上げるのに最適らしい。
迫りくる星型の光や光線を繭の防壁で受け止めつつ、天真は言う。
「今日だけじゃない。ボクたち全員があの魔法石を使えるようになるまで、何度でもこのトレーニングを続けるよ」
少なくとも、今の彼らに出来ることはそれだけだ。ハジメを倒し得る唯一の手段こそ、今この場で繰り広げられている戦いなのだ。
それから幾日もの間、五人はトレーニングに励んだ。その期間中も魔物は容赦なく出現し続けたが、ヒロたちは難なく魔物を倒していった。
そして日々は流れ、彼らは各々のレベルを高めた。ヒロを始めとする四人のウィザードたちが首から下げているものは、彼らが今まで使ってきた魔法石ではない。そう――ヨハネと戦っていたあの日に、四人が日向から渡された魔法石だ。
「そろそろ……コイツを使える頃合いだろう」
そう呟いたヒロは、自信に満ち溢れた表情をしていた。