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逢魔の迷い

 あれから一ヶ月間、ヒロたちは引き続き魔物と戦い続けた。無論、逢魔(おうま)もその期間中に戦っていたが、彼は少しばかり疑問を抱いていた。彼はヒロをトークアプリで呼び、寂れた公園のベンチに腰を降ろした。それからしばらくして、ヒロは逢魔の前に現れる。

「どうしたんだ? 逢魔。急に呼び出したりして」

 そう訊ねたヒロは、怪訝な顔をしていた。その目線の先で、逢魔は妙に真剣な顔つきをしていた。それから数瞬の沈黙を挟んだ後、彼は話を切り出す。

日向(ひゅうが)はもう死んだ。俺は何故、戦っているんだろう。俺は一体、なんのために戦っているんだろう」

 確かに、因縁の相手が亡くなった今、彼が戦う理由など見当たらないだろう。無論、ヒロには彼に戦闘を強いるつもりなど毛頭ない。ヒロは逢魔の隣に腰を降ろし、こう問いかける。

「君はまだ、悪事を働きたいと思うか?」

 あの日以来、逢魔はウィザードたちと行動を共にしてきたが、それでも彼はヴィランだ。そんな彼の遺伝子にヴィランの本能が残っていたとしても、驚くには値しないだろう。

「思っているさ。だけど俺がただのヴィランになれば、お前らは俺を殺すだろ? 日向が死んだことで、俺は一体、何を手に入れたんだろうな」

 それが彼の答えだった。ヒロはその答えを望んではいなかったが、彼を責めるようなこともしない。

「もう悪事をしないのであれば、ただそれだけで十分だ。君は無理に戦わなくて良い。俺も、鈴菜(すずな)も、紅愛(くれあ)も、天真(てんま)も、自分の意志で戦っているだけなんだ。君の生き方は、君が決めれば良い」

 そう語ったヒロは、優しさの籠った微笑みを浮かべていた。逢魔は心に迷いを抱き、言葉に詰まる。

「俺は……」

「ん? なんだ?」

「俺は、どうすれば良いんだろうな」

 無論、彼がヒロたちと共に戦うことは義務ではない。つまるところ、彼には共闘を続けなければならない義理などないのだ。両者ともに、それをよく理解している。それでも逢魔の心には、何かが引っかかっているのだ。


 そんな彼に対し、ヒロは助言する。

「自分の生き方なんて、いきなり決められるようなものでもないだろ。俺だって、それで三年以上も悩み続けてきたんだから」

「じゃあ、自分の生き方が見つかるまで、俺はどうすれば良いんだ?」

「ただ、生きていけば良い。人はただ生きようとするだけで、様々な壁にぶつかり、何度も転び、そして前に進むたびに何かを学んでいくものだ。歩みを進めていけば、君の望む生き方も自ずと見えてくるだろう」

 そんな持論を語ったヒロは、己の歩んできた過去を思い返した。彼はウィザードになり、様々な困難に見舞われていくうちに、気づけばかけがえのない仲間に囲まれていた。仲間に愛され、仲間を愛し、そして運命を共にすること――その全てが、今となっては彼にとっての最大の「生きる理由」であった。


 そんなヒロも今や、他者に人生を説く立場にいる。


 無言でうつむく逢魔に対し、ヒロはこう続ける。

「俺はずっと、生きる理由を手にしたいと願ってきた。だけど、俺が本当に必要としていたものは……『コイツらと共に生きたい』と思える仲間だったんだよ。アイツらがいるから、俺は生きたいと思える。そこに理由なんか要らないんだ」

 彼の紡いだ言の葉は、着実に逢魔の心を揺さぶった。それから逢魔は愛想笑いを浮かべ、本心を口にする。

「お前の言う通りかもな。あの男の業によって生まれた俺が、それでも生きたいと思えるのは……お前らのおかげかも知れない」

 この時、彼は確かな温もりを感じていた。


 しかし、そんな二人の時間も、長くは続かない。


 突如、彼らの目の前の空間に裂け目が生まれ、そこから変身済みのハジメが姿を現した。

「さあ……『テスト』の時間だ」

 もはや会話を続行している場合ではない。ヒロはすぐに変身し、己の右手に剣を生み出した。

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