ヴィラン細胞
残る一人は逢魔だ。彼は今、かつてマリス団の幹部たちが集まっていた廃墟の倉庫にて、竜型のヴィランに変身した姿で戦っている。
「なるほど、コイツらは魔術ではなく、身体構造として再生能力を持っているんだな。つまり、遺伝子を作り変えてしまえば良いってことか」
早くも、彼は何かをひらめたいようだ。そんな彼の目の前には今、四体の魔物がいる。四体は一斉に相手の身に飛び掛かり、その鋭い爪を振り下ろそうとした。直後、逢魔はその場から消え、魔物たちは互いの肉体に深い切り傷を負わせてしまった。当然、四体はすぐに再生し、臨戦態勢の構えを取る。
その直後である。
逢魔は各々の目の前に瞬間移動していき、彼らの首に次々と注射器を指していった。四体は苦しみ始め、そしてヴィランへと姿を変える。逢魔本人を除けば、今この場にいるヴィランは狐型、狼型、猫型、そして鼠型の四体だ。そう――元より様々な人間の遺伝子を作り変えてきた身の上の逢魔にとって、遺伝情報に起因する力を書き換えることは容易なのだ。
「面白いゲームになりそうだ」
瞬間移動と体術を組み合わせ、彼は周囲のヴィランたちに猛攻を仕掛ける。再生能力を失った標的たちは不可逆的な傷を負い、勢いよく吐血していく。この時点で、この戦いは逢魔に軍配が上がったようなものだろう。しかしヴィランと化した者は、魔術を使えるようになる。再生能力を封じ込められた代わりに、四体はそれぞれ別々の魔術を手に入れた。
狐型のヴィランは透明になり、その姿を隠した。これで逢魔は、この標的の姿を視認できなくなった。しかし彼には、相手の魔力を感じ取る力がある。逢魔は瞬間移動で間合いを詰め、標的の身に剛腕を叩きつけた。狐型のヴィランは爆発し、変身を解かれる。そして例の如く、その身は消滅していった。
続いて、狼型のヴィランは電流を放った。その速度は人間の到達し得る反応速度をゆうに上回っており、逢魔は瞬間移動をする間もなく電撃を浴びた。
「くくっ……楽しい戦いだ。ここにアイツらがいたらな……」
元より、この場所には彼の仲間がいた。そして仲間たちは皆、彼の因縁の相手――日向に殺されてしまった。そんな感傷を噛みしめつつ、逢魔は標的への攻撃を仕掛ける。彼は瞬間移動を駆使し、相手に近接戦闘を強いる。その上で、強靭な拳によるラッシュ攻撃を展開していく。そんな攻防を繰り返していった末に、狼型のヴィランは苦しみ始め、そして爆発した。
次に動くのは、猫型のヴィランだ。このヴィランが爪を振り下ろすや否や、そこから円弧型の光が発射された。逢魔はすぐに瞬間移動を行い、相手の背後を取る。しかしこの時、円弧型の光は彼を追尾していた。それは彼の背中を直撃し、小さな爆発を起こす。
「おっと……!」
爆炎から逃れるように、彼は瞬間移動を行った。その目の前では、彼の標的が円弧型の光連射している。そしてその全てが、彼の身を追い掛け回していくのだ。逢魔はそれを逆手に取った。彼は瞬間移動を駆使し、円弧型の光の挙動を調整した。無数の光は、彼の標的の身に直撃していく。何発もの攻撃を一身に浴びた猫型のヴィランは、その場で爆発した後に消滅していった。
残る標的は、鼠型のヴィランだ。そのヴィランは十体ほどに分身し、次々と逢魔の身に襲い掛かった。逢魔は迫りくる分身たちを、次々と返り討ちにしていった。しかし本体を倒さない限り、分身はすぐに補充されていく。無論、ここで本体を見破れない彼ではない。
「どれが本体なのかは魔力の波長でわかるが、ここでヴィランレベルを上げておくのも悪くはないな」
そう考えた彼は、しばらく相手の分身と戦い続けた。
そんな彼が鼠型のヴィランの本体を撃破したのは、それから一時間弱経過した後だった。