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8 メガレ先生

 そういえば、あの日は鍛治のおじいもいたね。


 ミシェルに生まれてきて、こしひかりにまた会えたあの日。

 ちっちゃなしろねこさんを見た瞬間にはっきり前世を思い出したのよね。

 それまではあれってなんだっけ? という感覚に度々陥っていたけれど明確に前世の人生を思い出したのがその時だった。


 わたしがちっちゃなしろねこさんをそっと持ち上げて、まだ5才の身体でいろんな感情にうち震えているうちにこのおじいときたら。


「なんだ? そのちっさい生き物は。見たことないな…。食べるところもあんまり無さそ「だめえええええーーーー!!」おおお?」


「ねこちゃん食べちゃだめなのーーーー!!」


「「ねこちゃん?」」


「名前付けたのか。もしかしてそのちっさいの飼うのか?」


 居合わせたおじいたちが不思議そうな顔をしてたっけ。


 誰も見たことのない猫という生き物。しかもこしひかりそっくり。

 わたしは自分の所にわざわざ来たのだと確信していた。


「結局死なせちゃったんだね…。もうアレルギーも喘息も無いし、いっしょに暮らす?」


「にゃあ」


 ここで出会ったのが生まれたてや生まれて数日の赤ちゃんじゃなくって良かったよ。

 生後2週間くらいなら、大変だけど生まれたてとは難易度がずいぶん違うからね。

 わたしがお世話できるくらいの年になるまで待っていてくれたのかな、なんて。


 思えばこの時にこの世界の神様の関与を確信したのかな。

 だってこんな出会い、偶然だなんて思わない。作為を感じるよ。

 だからなんだって訳じゃないけど、まあ、感謝してます。

 それと異世界なんだし、いつかこしひかりが人の言葉を話す日が来るのかも……なんて、ちょっぴり期待していたりする。すでに人間の言葉は理解してるような気がするのよね。だってうちの子、仔猫にしては賢すぎるもの!




 今日は鍛治のおじいが長にパンを持って来たらしく、書斎の隣の部屋に移動してちょっとしたティーブレイクだ。

 鍛治のおじいの奥さんが焼いた焼きたてのパンは、木の実やチーズやジャムが入った菓子パン的なラインナップで、長はこれが朝兼お昼ごはんらしい。

 わたしも菓子パンのお昼に誘われたけど、もうすぐママとお昼ごはんだからと断ったら、長も鍛治のおじいも変な顔して、長はジュースを淹れてくれて鍛治のおじいはいくつか菓子パンを包んでくれた。

 わーい! パパとママといっしょに食べるよ!


「おじい、ありがとう!」


「……ミシェルは急にしっかりしてきたな?」


「ミシェルはこしひかりのお姉さんだからね!」


 ママと似たような事を言う鍛治のおじいにドヤって言ったら笑われた。むう……。


 たしかに今まではおじいやおばあが差し出してくる物は大体その場でお口の中に入れてたけどね。


「長。ミシェル、ご本が読みたいの。ミシェルに字、おしえてください」


 せっかくここに来てもいいよって言ってもらえたけど、わたし、読み書きできないんだよね……。さっきまではママに教えてもらおうって思っていたけど、長の口振りだとママはあまり読むのが得意じゃない? それとも、ここの本って言っていたから、ここの本が特殊? 専門的過ぎてママには読めないってこと?


「そういや、メガレはどこだ? 今日は来てないな?」


「集積所だろう。そのうち来る。ミシェル、文字ならメガレの坊主に教えてもらえ」


 坊主? そんな若い人、この集落にいるの?


「ちょうどいい。ミシェル、集積所に行ったことないだろ? 連れてってやる」


「にゃっ」


 鍛治のおじいがわたしのお膝のこしひかりごと腕に乗せてさっさと部屋を出ていくから、おじいの肩越しに長にバイバイってするしか出来なかった。


 1階に降りて、玄関とは反対側……建物の奥へ行くといくつか小部屋がある。物置きやリネン室……かな。机がある交番みたいな小部屋もある。扉がある部屋はわからないけど、そもそも扉自体がない部屋は丸見えだね。ほとんどが棚部屋……収納っぽいけど。

 厨房らしきところを通り過ぎて勝手口? 外に出ちゃったよ?


 っていうか、このお家、誰もいないんだけど……。

 長って独りで住んでるの? 使用人とかいないのかな。どうやってこんな大きな家屋敷を維持してるんだろう……。あっ、魔法?


 勝手口を出てすぐに下に降りる石段があった。来たときとは別の階段がこんなところにも!


「わあーっ! なにこれえ!?」


「やっぱり来たことなかったか。ここが集積所な」


 石段を降りてぐるっと回り込むと、石垣がぽっかり空いた空間が出現した。

 シェルターとかガレージのような地下空間が屋敷の下に作られていた。駐車場なら10台くらい停められそうなスペース。入り口脇には薪が積み上げられていて、そこは屋根があるだけだけど、薪といっしょに干されている蔓には見覚えあるよ。この蔓でまとめられた薪が家に積んであるもん。


「お~い。メガレ~」


「なんだい?」


「うわっ」


「みゃっ」


「にゃっ」


 おじいがずんずん中に入って行くから真後ろから返事が来てびっくりしたよ!

 入り口脇にも棚があるのね。

 A4サイズほどのクリップボードの紙に棚卸し? 在庫チェック? 何か書き込みをしていたのは、パパやママがお兄と呼ぶおじさん……。坊主って言うからてっきり若い人かと……だよね……。この集落に若い人なんていない。知ってた。


「ミシェルじゃないか。お使いかい?」


 長(75)からするとこの世代は坊主呼びになるのか……。いくつかな?


 鑑定!


 メガレ・アルマゲスト・シンタクシス(47)

 人間

 男



 あれ?

 この人も長い名前。そういえば鍛治のおじいは?


 鑑定!


 アストロフ・ヒープストス(78)

 人間

 男


 こっちもちょっと長いっていうか、家名らしきものがあるね?

 ママにはなかったから男の人だけってことかな? あとでパパも鑑定! しよう。


「おつかいじゃないの。あのね、ミシェルに字を教えてほしいの」


「上の本が読みたいんだと。長に教えてっつってたけどメガレに教えてもらえって」


「そうか! それは僕の仕事だね!」


 嬉しそうに破顔するメガレさん。優しそうな物言いに物腰も柔らかなんだけど、見た目すっごく大きいのよね。パパと頭ひとつ分くらい違うし高さだけじゃなくて厚みもある。前世、お祖父ちゃんの会社のデザインチームにこんな感じの人がいたのを思い出した。いや、正直顔はあまり覚えてないけど、その人がいつも着ていたクマのキャラクターのパーカーを思い出した……。クマさん……。この世界ってクマはいるのかな?


「メガレせんせい」


「!!」


「ははっ! これでこの集落の識字率が上がるな!」


 分母が小さいからね。

 この集落に識字率って概念があったことに驚いたよ。あと識字率を下げていたのはママとかかな。


 もうすぐお昼なので、お昼寝のあとにメガレ先生と約束して家に帰る。

 集落には学校なんてないものね。贅沢個別授業だよ。


 帰る前に集積所の事を教えてもらった。

 集落で作った農作物や紙や布、焼きものその他はここに持って来れば、欲しい人が欲しいだけ持って行くという、なんとも大雑把なシステムだった。

 集落の住民は畑をしたりもの作りをしたり狩りをしたりして過ごしているけれど、個人で消費する量は大したことないのでそれぞれがここに持ち込んで、ついでに他の生産物をもらって行く。それでもこの集落では余りがかなり出るので魔法の収納鞄で他の町だの村だのに売りに行くらしい。

 ちなみにお料理したもの……パンだの焼肉だの茹でた野菜だのはここには持ち込み禁止らしい。


「ダメだって言ってるのにおばあたちは……!」


 ここを管理しているというメガレ先生がぷりぷりしているところをみると、おばあたちには守られていないみたいね。


 薪の集積所は他にもあるらしいけど、薪の脇の木箱には炭が入っているのが見えた。

 パパ、炭焼き終わったかな?

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