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6 長の家

「ー……。にゃー…。にゃー…。にゃー…。にゃー…。にゃー…。……」


 か細い鳴き声を夢うつつに聞いている。

 まだお声がか細くてちっちゃいんだよね。かぁーわいぃーなあ~……。


 ………………。


 はっ。呼んでる!


 一瞬で覚醒して布団の中からするっとベッドを滑り降りると、ベッドの下ではかわゆいしろねこさんが一生懸命鳴いていた。


「おはよっ。こしひかり、おなか空いたね? すぐごはんにしようね~」


 夜は寝室にかごを移動させていたとはいえ、自力でかごから出てよちよち歩いてベッドのところまで来たんだね。スゴい! 偉いよ! かわいいよ!


 ちっちゃなしろねこさんをそっと抱っこするとふるふるしている。


「ふふっ」


 まだもふもふというよりふわっふわな毛皮ごしに、たしかに鼓動を感じられるのが堪らなくうれしい。元気に鳴いているしろねこさんが愛おしい。

 ちゃんと生きてる。


 まだ数日だけど、毎日この奇跡に感動している。感謝している。

 神様、ありがとう。



 こしひかりをかごに入れてリビングへ移動する。

 ママがまだ寝てるからそっとね。


 定位置にかごを置くと、砂を入れた箱が目に入ったのでごはんよりまずトイレだったかなと思い至った。

 こしひかり用に小さく切って貰った布を魔法で少し濡らしてお尻を刺激する。まだ自力で排泄できないみたいだからお手伝い。がんばれ~。……。


「……出た! えらいねっ。こしひかりっ。いいこだねっ。かわいいよ!」


 トイレの中でたくさん褒めておく。


「にゃ」


 ドヤ顔のお返事もかわゆい!


 トイレのあとはごはん。

 山羊のミルクを念のため薄めて、哺乳瓶はないから木匙でちょっとずつ。……あれ?


「やっぱり……! こしひかり、歯が生えてきたね!」


 今初めて気が付いたけど、ちっちゃく歯が出ている! かぁ~わいぃ~!


 仔猫どころか動物の飼育経験皆無だからか、毎日発見の連続で新鮮だね。


 こうして付きっきりでお世話していると、やっぱり弱った仔猫を保護っていうのはゼロ知識の初心者だった旦那様……勇太くんには厳しかったんじゃないかなって思う。今よりももっと小さくて弱っていたし。もちろん母猫がいなくても育つ子は育つんだろうけど……。

 タイミングもよろしくなかったしね。近くの保護猫シェルターさんが手一杯で次の休みに遠くの保護施設に連れていくまでの自力保護の予定だった。アレルギー持ちだからって奥さんに内緒になんかするから浮気を疑われるし。挙動不審過ぎだったのよ。ぷんすこ。

 猫ちゃんのお部屋でしばらく在宅勤務することにしても、どうしても出て行かなければいけない仕事があるからずっとは付いていられなくて。でも便利システムをいろいろ駆使していたよね。見守りカメラや成分分析と体重計付きのトイレとか。浮気発覚後は見守りカメラに四六時中かじりついていたわたしです。

 こしひかりの兄弟の子達、みんな可愛かった。元気に育っているかな……。



 ママが起きて来て、一緒にごはんを食べたらヘソ天でおやすみ中のこしひかりを幼稚園カバンの中にそっと入れて外に遊びに行く。

 ママは普段は近くの小屋で機織りや染め物をしている。

 今日炭焼きから戻って来る予定の大天使なパパは、いつもは森で木こりや狩りをしているみたい。


 わたしは毎日特に目的もなくぶらぶらお散歩。

 大人だった前世の記憶が蘇ったわたしは魔法で出来ることの検証をしたいし、この世界のことを知るために何か本を読みたい。本を読むためにまず文字を覚えたいなあ。

 そもそもこの集落のことをよく知らないので集落の全貌を知ろうと思って、きのうは端まで歩くつもりでいたのに、きれいなお花を見付けたからつい遊んじゃって集落の端まで行けなかった。

 まあ急ぐこともないよね。


 今日は家を出てお風呂とは反対側へ行く。

 お風呂は今日男子の日だし、炭酸の井戸もどうせひとりじゃ使えないしね。


 てくてく歩いて行くと、少し小高くなっている奥の方に二階建ての建物が見える。

 他の建物も同じ石造りが多いけどどれも全部平屋だし、そもそもの大きさが全然違うからやっぱり個人宅じゃないのかな?


 なかなかに立派な石の階段を上ると、なんと石畳の道が階段から建物まで続いている。

 なんだろう? すごい違和感……。

 石の階段もそうだけどこんな名前もない集落にそぐわない立派な道。

 そもそも集落全体の建物も立派だよね。わたしが知っている木造の小屋は機織りや炭焼きなんかの作業場。作業小屋は木造で住居は石造りってこと?


「あれ? なんかここ、来たことある……?」


 ひとりでここまで来たことはないけれど、うすぼんやりと、パパに抱っこされてここに来たことあるような記憶が……。


「にゃー」


 起きたらしいしろねこさんをカバンから出して抱っこする。

 階段上ったから揺れて起きちゃったのかな。


 石畳の道の周囲はきれいに整地されて、何もない広場のようになっているけど、草も取ってあってきちんと管理されているのがわかる。端の方にはやっぱり畑が作ってあって、そんなところはこの集落らしい気がした。


 でも道の先にある建物の正面ファサードが立派すぎる。

 この世界の文明レベルをわたしが知らないからそう感じるだけで、この世界ではこれが普通なのかな?


 どこの行政にも組み込まれていない名も無き集落のイメージじゃないよ。もしかして、この集落を囲む森ってそんなに大きな森でもない? 勝手に森の中にぽつんと孤立した集落だって思っていたけど、そもそもどこにも税を納めていないってどこで聞いたんだっけ?

 たしか、どこかの町に物見遊山ついでに行商に行ったおじいたちが通行税が上がってどうの……、どこかの村の税が上がってどうのって言っていたのよね。

 そう、それでその時はまだ普通の幼児なミシェルが村って何? 税って何? って聞いて、そのときにここがどこにも属していないただの集落だって教えてもらったんだった。


 ……ただの集落?


「ふわっ」


「み゛ゃっ!」


 突然後ろからひょいっと持ち上げられてこしひかりが怒った。いや、持ち上げられたのはわたしだけど。わたしも驚いて変な声出たけど、わたしに抱っこされているこしひかりが怒ってる。こしひかりの初オコじゃないですか?


「ミシェル、こんなところで何してんだ? よく階段上れたな」


 たしかに集落にはここ以外階段が存在してないね。

 でも5才児は階段くらい上れるから。


「おじい」


 たしか、このおじいは鍛冶をしているおじいだよ。浅黒いマッチョのおじい。いつも頭と首に手拭いを巻いている。

 ちょうどいいので聞いてみる。


「おじい。ここってだれかの家? なんでこんなに大きいの? たくさん住んでるから?」


 もしかしたらこの屋敷の住人は普段会っているおじいやおばあ達とはちがうのかもしれないと思ったのだ。


「ここか? ここは長が住んでいる家だな」

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