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5 天使なお名前と炭酸井戸

 鑑定!


 アンジュ(24)

 人間

 女



 鑑定ってレベルとかHPMPとか出ないんだね。まあ、ゲームじゃないもんね。

 そっかー。

 ママの名前、アンジュっていうんだー。


 ……。


 ぶくぶくぶくぶく…………。


「ミシェル!? お風呂のお湯は飲んじゃだめっていったでしょー!?」


「……のんでないもん」


 リアルにOrzな気分だよ。


「ママ! アンジュってママのこと!? ママのおなまえアンジュっていうの?」


 そーだよ! おじいおばあの個体名どころか両親の名前も知らなかったよ!


「あら?」


「まあ」


「だってママはママだもん!」


「そりゃそうだわ!」


 むうー。みんな笑う~……。


「言われてみたらそうよね。おうちじゃ、パパだってママとしか呼ばないし、ミシェルが生まれてからはおじいやおばあだってわたしの名前を呼んだりしてないものね」


 そうだよ!

 思い返してみればわたしがママと一緒にいるときにはみんなまずわたしに声をかけてきて、その後で「ママと散歩かい?」とか「ママ、ミシェルにこれやってくれ」とか、ミシェルのママとして話していた。

 ママはミシェルのママって名前じゃないよ!


 ママにぽかぽか当たりたいけどキャミワンピ一枚の美女にそんなことできない。だから代わりにぎゅーってしちゃう。


「あらあら」


「ごめんごめん。ミシェル~、ご機嫌なおして?」


「……」


 やっ。だってママまだクスクス笑ってるもん!


「しょーがないわね~。せっかくミシェルにパパのお名前教えようと思ったんだけどな~」


 どーしようかな~。なんて言ってるけど、そんなの知りたいに決まってるよ!

 ぎゅーっを半解除してママのお胸から顔を出す。……息が出来なくて正直ちょっと苦しかったんだけどそれは内緒にしておく。


「パパのおなまえ、なに?」


「パパのお名前はね、ミハエルっていうの」


 大天使か! 似合う! いや、でも。

 ミシェルの両親がアンジュとミハエルって……! 誰よ名付けたの!


「……だれがおなまえきめたの?」


「さあ? おじいかおばあじゃない?」


 だからどのおじいやおばあ!?


「ミシェルはパパとママでつけたのよー」


 ぎゅーってやり返されたけど、ママはすぐにあれ? ってなる。


「そうね。パパとママのお名前あっても特に呼ぶことないわね?」


 ……だよね。






「わあーっ。アワアワいっぱい!」


 お風呂から出て少し歩いた所に炭酸水の井戸はあった。


 東屋のように立派な屋根に驚いたけど、なんとベンチまで作ってあってなんだか納得してしまった。愛好家がいるんだね。他の井戸と扱いがちがうよ……。

 聞くと、やっぱり愛飲している住民がけっこういるらしい。


 わたしが手を伸ばせば届きそうなたっぷりの水量。その水底からぽこぽこぽこぽこと絶え間なく生まれてくる泡はなんだか神秘的でいつまでも見ていられそう。


 転げ落ちないようにママに捕獲……抱っこされたまま、おばあに柄杓で持参したコップに井戸のお水を淹れてもらう。


 ちなみにお風呂から上がったところで四次元なポケットを使ってひとしきり騒がれた。やっぱり誰も空間収納的な魔法は使ってないみたい。


「ミシェル、ゆっくり、少ーしずつよ?」


 ママは炭酸の刺激を警戒している。口を寄せただけでもうパチパチが感じられるもんね。

 うん。ごくごくなんて飲まないよ。


「おいしー!」


 やっぱり炭酸が弾ける刺激はちょっと強いけど、なんだろう甘み? ミネラルって味するの? ほんのり何か味が感じられる気がする。胃にシュワ~っと冷たく落ちていくの。


 ママはわたしが美味しいって言うのを疑っているけど、ベンチに下ろしてもらって、ここで炭酸水の入ったコップに蜂蜜檸檬水を投入!


「ママのんで! おいしいよ!」


「あ、檸檬水ね!」


 ママは蜂蜜檸檬水の味を想像したのか抵抗なく飲んでくれた。アルハラじゃないよ。


「あら美味し!」


 わたしには少しずつ飲みなさいって言ったくせにママ、ひと口ふた口の後はごくごく飲んでる! お風呂上りだからより美味しく感じるんだろうけどずるいー! わたしがごくごくしたらたぶんむせちゃう。


「あらほんと?」


「檸檬水って言った? 蜂蜜入れたのね。本当! 美味しいわね」


 おばあたちにもコップを回して蜂蜜檸檬水ソーダ割り……レモンソーダを楽しんでもらった。いっぱいあるからね。


 この炭酸水の井戸は、時期によっては赤くなって飲めなくなるらしい。土中の鉄分を含んで赤茶色になるのかな?

 目安はここに常備してある柄杓で掬えなくなるくらい水位が下がったら。水色に変化がなくても水位が下がったら使用禁止なんだって。

 わたしは単独での使用は禁止って言われちゃった。両親やおじいおばあに汲んでもらいなさいって。まあ、お家とかの普通の井戸もまだ使えないんだけどね。




 今日のお風呂はちょっとのんびりしちゃったから、帰り道は西陽になっていた。


 山羊を飼っているお家でこしひかりのミルクをもらって帰る。

 子猫っていつまでミルク食なんだろう? たしか、野性動物のドキュメント番組で生後2か月のヤマネコの赤ちゃんたちがママ猫のおっぱい奪い合っていたけど、家猫も同じかな? こしひかりはもう少しで1か月なはずだから、あと1月はミルクと離乳食?


 ママとこしひかりのご飯について話しながら帰る。

 でも両親もおじいおばあもどうやら猫を見たことがないみたい。たしかに集落には猫ちゃんいないよね。町にはいるんだろうけど。猫の育て方なんてわからないから、前世でにわかに詰め込んだ知識の断片を思い出しながら手探りでお世話するしかないね。


 前世でわたしとほぼ同時に死んだこしひかりが数日前に現れたのは、わたしみたいに生まれ変わったんじゃなくて、死んだ時の姿でここに来たからだと勝手に思っている。何かの間違いか神様とかの手続き的なものがあったとか? 神様に会ったことないからわからないけど。

 わからないけど、前世で一緒にいた子猫ちゃんたちの中でいちばん弱っていたこしひかりが、姿はそのままなのに健康な身体なのはその会ったことない神様のおかげだと思っていたりする。わたし自身の異世界転生についてはどうなんだろう? ミシェルは健康でぜん息もアレルギーもないからやっぱり神様に感謝しちゃうんだけどね。


 お家に着いて扉を開けるとリビングからか細いお声が!


「ただいまっ。こしひかり~!」


 まだまだちっちゃな子猫ちゃん。

 前世、団子状に集まった子猫ちゃんたちの中で一匹だけ真っ白で、モニター越しに米粒みたいに見えたの。

 保護猫シェルターさんの空き待ちでの緊急一時保護だったから、お名前を付けていいのかわからなかったけど、こしひかりだけはわたしがお名前付けちゃった。

 米侍を名乗っていた旦那様も賛成してくれたしね。

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