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3 四次元なポケット

「さ! 天才ミシェルが作ったおいしいお水を持ってお風呂に行きましょう!」


「ママ、ママ、コップ! コップ持って行きたいの~!」


 コップがなければせっかくのおいしい蜂蜜檸檬水が飲めない。ピッチャーから直に飲むとか難易度高くない?

 さっさと出掛けようとするママに焦りながら愛用の木のコップを取ってくる。ママと一緒に使えばいいよね、ひとつで。


 リビングにいるこしひかりを見ると、木の蔓で編んだかごの中でうとうとしている。これはお留守番かな。


「お風呂に行ってくるね」


「……にゃ…」


 小さな声で行ってきますを言ったら、眠そうなお返事のあとに大きなあくびをしながら伸びをしている。ふわ~っ! ちっちゃな前足の指が全開! 今握手してもらったら怒っちゃうかなっ。

 ふたたびうとうとし始めたしろねこさんがとってもかわゆくていつまでも見ていたいけど、お風呂が待っている!




 集落の外れにある温泉までママとてくてく。

 手ぬぐいや手桶、お風呂着等のいつものお風呂グッズにピッチャーを持ったらママの両手がふさがってしまったので手はつなげない。コップは幼稚園かばんに入れたから、わたしの両手は空いてるよ。


「ママ、ミシェルが荷物持つよ」


「そう? ミシェルに持てるかしら。大丈夫?」


 そういえば、前に自分のお風呂グッズ持って歩いていて転んだんだっけ……。ママ、わたしがまた転んじゃうかもって心配してるのね。転んだ時に手ぬぐいやお風呂着を地面に放って汚しちゃったからね! ごめんなさい!


 大人の記憶が甦っても体格が変わったわけじゃないから、転ばないからだいじょうぶ~、なんて言えない。多少は注意深くなったかもだけど…。しかも大人だった記憶があるから「ミシェルが持つの~っ。持ちたい~!」なんて駄々っ子の振舞いもできぬ……。いや、なんかできそうだけどっていうか、ちょっと前までしてたような気がするけど、今はママを困らせるようなことはできないって気持ちが勝っちゃう。でも両手いっぱいの荷物、なんとか減らしたいな。両手がふさがっているから荷物を分けて渡してもらうこともできない。ママ、荷物ちょっともらうからしゃがんでほしい……。


「う~ん。どうしようかしら~。大丈夫かな~」


 なんてエンドレスに呟きながら時間稼ぎをするママを見ていて気が付いた。


 こんな時こそ魔法じゃない!?


 ラノベ定番のアレ。アイテムボックスだとか空間収納だとかのストレージ系の魔法、出来ないかな?

 異空間収納が出来たらこのまま集落の外れまでわたしと目を合わせずにてくてくして「あら~、お風呂に着いちゃったわね。残念だけどまた今度お手伝いしてね」なんて言うつもり(だと思う)のママと手をつないで歩ける!


 どうやるんだろう?

 魔法はイメージが大事だってよく言うよね。魔法式だの魔法陣だのなんてわからないし、イメージ、イメージ……。……わたしとしては異空間収納っていうと、GOBみたいなのじゃなくてドラちゃんのポッケなんだよね……。

 あ。なんだかできそう。


 ためしに小石を拾っておなかの辺りに突っ込んだ。


「できた!!」


「ミシェル!?」


 あっ、小石を拾うのに急にしゃがんだから転んだって思われちゃったかな!? 驚かせてごめんなさい! それより。


「ママ! 見て! まほうできた~!」


「魔法? なあに?」


 わたしのお腹の前には異空間の入り口が袋の口のように開いている。この中が四次元な空間なのかはわからないけれど、ちゃんと取り出せるし何が入っているかもわかるよ。


「ママ、ここ、ミシェルのおなかのまえのところに蜂蜜檸檬のお水入れてみて!」


「え~! なにこれ!? ……こう? え、え? えええ~!」


「「入った~!」」


 ママと一緒にきゃあきゃあする。

 わたしはうれしくてぴょんぴょんしてるけど、ママは不思議空間に驚いてピッチャーを出したり入れたりしている。


「ミシェル……。なんだかすごい魔法を作ったのね?」


「えへへ~。ママ、その荷物もここに入れてー」


「あら~。全部入っちゃったわ。どうなっているのかしら……」


 ママが架空のポケットの入り口をぱかーっと開けて中を見ているのを一緒に見るけど、特にぐにゃぐにゃした空間が見えるわけでもなく、すぐそこにある地面が見えるだけ。ただ、手を突っ込むとそこだけ手が消えたように見えるから、本当に入り口だけってかんじ。

 入り口を閉じると何も見えなくなって、そうなると他の人には何も干渉出来なくなるみたい。ママがわたしのお腹の前で手を動かしても何もないよ。

 もちろんわたしには収納にピッチャーやお風呂グッズが入っているのがわかる。

 異空間の容量は特に設定していないからいくらでも入るし、時間を止めようと思ったら……うん、出来るね! あとはソート機能だけど……お風呂の後でいいかな。


「ママ、手!」


「はい。……ふふっ。なあに?」


 わたしが出した手を反射でつないだママとお風呂へてくてく。


「えへへ~。魔法で荷物持ったらママと手をつなげるの~」


 うれしくてママとつないだ手をぶんぶんしちゃう。


「えっ……? え~と、ミシェルはママと手をつなぎたいから荷物を持つことができる魔法を作ったってことかしら……?」


「そうー! 四次元ポ……え~と、い……空間収納なの。なんでも入るの」


 なんでもは言い過ぎ? でも生き物もふつうに入りそう。中で生きていられるかはちょっとわからないけど……。これも今度検証してみなきゃね。


「……」


「ママ?」


 あれ……。手をつないで歩きたいとか、もしかしたらちょっと甘えすぎだった……?


 なんて、少し不安になりかけたところでママにぎゅってされて、あっという間に抱き上げられていた。


「ミシェル! ミシェルはママと手をつなぎたかったのね! ママはね、ママは、ミシェルを抱っこしたかったのよー!」


「きゃあー!」


 ママは歩きながらわたしを持ち上げてくるくる回ってまたぎゅってする。


「ママ、ミシェル重いのよー?」


 いや、手をつないで歩くよりずっと速いのだけれど。ママの抱っこは大好きだからうれしいけど、5才児を抱えて歩くのは重かろうに……。


「……ミシェルはこしひかりが来てから急にお姉さんになったわね?」


「!」


 前世でこしひかりと会ったのは死ぬ一週間くらい前? いや、モニター越しで直接会ったのは死ぬ直前に一回会っただけなんだけど。だからこの数日と合わせて二週間足らず、わたしはずっとこしひかりのママのつもりでいたけれど。


「ママてんさい! そうね! ミシェルはこしひかりのお姉さんだね!」


 こしひかりのお姉さん! ママよりしっくりくるよ!


「ふふっ。ふふふっ」


 ママに笑われちゃった。こしひかりを家に連れて来た時に「ミシェルがママよ~」って言っていたのを思い出したのね。

 でも難易度超高いって噂の子猫の赤ちゃん期は前世の旦那様が付きっきりでお世話していたみたいでわたしはノータッチだったからね……。それどころか浮気を疑って調べたり……。って、ヤメヤメ!! 入院騒ぎになったことまで思い出しちゃった。

 とにかくママっていうよりわたしはこしひかりのお姉さんポジションの方がしっくりくる。


「こしひかりはミシェルの弟なの!」


「ミシェルお姉さん、お風呂に着きましたよ~」


 いつのまに。

 ママが抱っこしたかったっていうのは早くお風呂に入りたいから幼児の歩みに合わせてなんかいられないってわけじゃないよね?

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