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2 は~ちみつれもん

 どこぞに税を納めるでもなく、食べるものに困っているわけでもなく備蓄も充分なこの集落の住人たちは、まるでリタイア後の趣味のようにのんびり畑仕事や物作りをしている。

 あれだ。

 市民農園で野菜作ったり蕎麦打ちやパン作りや裁縫にはまったりしているいきいきシルバー。畑も農作業ってハードなイメージとはかけ離れた趣味の畑いじりって感じで、のんびり虫や脇芽や雑草を摘まんではお喋りしたりお茶を飲んだり雲を眺めたりうろちょろする幼児におやつあーんしたり。


 集落の構成は年寄りばかり。わたしはその住民の名前をほとんど知らない。

 だってみんな「おじい」「おばあ」で通じるんだもん。


 これまで気にしたことがなかったけど、前世の記憶が蘇ってから数日。かなりいろいろ気になっている。


 何がって?


 うん。いろいろあるけどいまこの瞬間に気になっていることはけっこう大事な事だと思う。


 そうそれは、どのおじいとおばあがわたしの祖父母なのかってこと!

 つまり両親の親!

 今ここにいるおじいおばあの中にいるのか? いまさら聞けないけど今聞いておかないとずっと分からないままな気もするっ。


 というかね?

 短い今生の記憶を遡っても、いろんな人が「ミシェル~。おじいだよ~」「ミシェルちゃ~ん。おばあですよ~」って会うたび言ってるんですけど。皆さん自分の事をおじい、おばあ呼びしていて名前を一切言わないから、前世を思い出さなかったらこの環境では疑問すら出てこないのは当然だと思う。


 容姿もみんな濃い薄いはあっても総じて金髪碧眼だから、どのおじいおばあが血縁者でもおかしくなさそう。

 こんな小さな集落なのだから、多分ほとんどの住民は親戚ではあるんだろうけど……。


 あと、おじちゃんおばちゃんもだけど、おじいおばあも夫婦で暮らしている人ばかりなことを考えると、子供、他にもいるんじゃないかな? 多分だけど、大人になって集落を出て行っちゃったとか?


「ミシェルちゃん。今日はお風呂の日よ~。おばあと一緒に入りましょうねえ」


「ずるいぞっ。わしだってミシェルと一緒に風呂入りたい!」


「おじいー。今日はじょしの日!」


 わたしが文句を言うおじいを、めっと嗜めると周りはどっと笑いの渦に包まれた。数人いじけてるおじいもいるけど。


「ミシェルはよう知っとる」


「かしこいの~」


 年寄りが多いからってわけでもないだろうけど、わたしの数年の記憶にあるかぎり、ここは荒事の無い長閑な集落だ。

 前世は病弱だったし、そこそこお嬢様育ちでのんびりやなわたしにはこの環境で生まれたことはとっても有り難いことなんだよね。

 ちょっと言っとくべき?


 神さまありがとー!





 お昼ごはんを食べてお昼寝したら、今日はお風呂の日!


 集落の外れにある天然温泉! に連れていってもらう。


「ミシェル~。だめ。それはだめよ」


 前回のお風呂の日は記憶が戻った直後だったし、かわいいこしひかりをお迎えするのに相応しい環境を調えるのに必死で、温泉を楽しむって感じじゃなかったけど、今日はちゃんと温泉を堪能するんだ~。


 でも家に帰る前におじいにもいでもらった檸檬を搾って檸檬水持参でお風呂へゴーしようと思ったんだけど、容れ物がないんだよね……。

 檸檬を握りしめどうしようかとキッチンを見上げていたら、パパの頭くらいの大きさの壺を発見! したのにママにだめよって言われちゃった。むう……。


「これはパパのお酒。ミシェルはめっ、よ。ジュース飲むの?」


 お酒かー。空の壺とかないのかな。


「ううん。お風呂にこれ! 持ってくの。 容れるのなにかない?」


 あ、檸檬を搾って廃棄物が出るのは勿体ないよね。切ってもらおう!


「ママ、ママっ。容れ物にね、お水、おいしいお水を入れてね、これを切って入れてほしいの。おいしいの、お風呂で飲むのよ!」


「あら、いいわね」


 うまく舌のまわらない幼児が一生懸命に話すのをふむふむ聞いていたママは、戸棚から陶器のピッチャーを出してきた。ふつうにピッチャーあったんだね。聞いてよかったよ。

 ママはすぐに家のそばにある井戸からお水を汲んでくれる。その後ろを檸檬を握りしめたわたしがついてまわる。あれ、こしひかり? どこ行くの~……って。……リビングの隅に行っちゃった。ショック……。でもまだよちよち歩きなしろねこさん……ちょーかわゆいっ。


「おいしいお水~。すっぱい檸檬~。……あら?」


 口ずさみながらピッチャーにお水をじょぼじょぼ注いで残ったお水を飲み水の甕に足したママは、手桶を置いてわたしから檸檬を受け取った。


「ねぇミシェル。これね。檸檬。とおっ……ってもすっぱいんだけど……」


「だいじょうぶっ!」


 ママが「大丈夫?」って聞く前に大丈夫って言っておく。檸檬水大好き!

 ん? でも今は子供舌だから酸味強いのはだめ?


「だ、だいじょうぶだよ~。檸檬じゃなくて檸檬のお水だもん……」


「そう?」


 う。ママが檸檬をスライスしてくれてるけど、見てたら口の中がすっぱい口になってきた……。

 あ! だから? 出会ってから数日、ずっと後追いしてくれてたかわゆい子がさっき逃げちゃったのは。わたしのおててもめっちゃ檸檬だわぁ。檸檬イヤだったのね……ごめんね~。


 スライスした檸檬をピッチャーの中に豪快にボチャボチャドボンと投じた(!)ママは、戸棚からマグカップくらいの壺を出してにっこり……というか、にんまりして振り向いた。


「ミシェルちゃ~ん。これなーんだ?」


 豆粒のような把っ手の付いた陶器の蓋の縁には何かの液体が固まった物がこびりついている。ママ……。


 ぱこん。

 壺の口に乗っかっているだけの蓋を開けるのに変な音させてるけどママ! それは!!


「「はちみつ~!」」


 ふわ~!


「すごーい! ママてんさいだね!」


 って言った途端、ママが蜂蜜を匙で掬ってとろりとピッチャーに投入……! ママぁ~!


「あら?」


 案の定、汲みたての冷たい井戸水に蜂蜜が固まってママにコロコロとかき混ぜられている。


 あれ?

 ママって、ママって、けっこう大雑把な人だったりする……?


「ママ……。お水が冷たいから蜂蜜固まっちゃったね……」


「え? そうなの? え~っと、じゃあ温めれば溶けるのかしら?」


 確かに前世では固まっちゃった蜂蜜は湯煎やレンチンしてたけど……。


「ねえママ! ミシェルがまほう使って温める!」


 魔法を使うって初めて口に出して言ったけどなんか恥ずかしい! なんでだろっ。


「ミシェルが? 魔法で?」


 確かレンチンは水分子H2Oを振動させてその摩擦熱で温めてるって旦那様が言ってた! 振動……摩擦……。…………。


「わ? わ~!?」


 ママが持つピッチャーにおててをぴたっとして水分子を意識して振動を念じると、ピッチャーが温まってきたのがわかる。


「すごい! すごいわミシェル! 火にもかけずにお水を温かくしちゃうなんて!」


 やっぱり火にかけるつもりだったのね、ママ……。ママ、このピッチャーは直火可ですか……?


「蜂蜜は溶けたけど……」


 うん。わかってる。温いって言いたいんだよね?


「冷たくするの!」


 再びピッチャーに手を当てて、自由に動き回っている水分子の動きを止めるように念じる。


「すごい……。ミシェル天才……!?」


 無事に氷が浮かぶ蜂蜜檸檬水ができたけど……。でもこれって想像していた水魔法とはなんかちがう……。これじゃない……。

 今のはなんか念力ってかんじだったね。ハンドパワー。


 前世を思い出す前は魔法とか特に意識しないまま、大人を真似て水とか火とか出してたよね? ……うん、今でもふつうに出来る。

 う~ん……。

 科学知識で技が増えたって考えればいいのかな? 要検証だね。

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