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12 行ってきます



 長の言ってること、わかるよ?


 順当にいけばおじいおばあやパパママもミシェルより先にいなくなる。ミシェルはこのまま集落にいれば確実に将来独りぼっちになっちゃう。


 でもね、だからといってこの集落から出ていかなくちゃならないってことはないと思うの。

 わたしが集落最後の一人としてずっとここで畑をしながら暮らしていてもいいんじゃない?


 ああ、そうだ。

 それよりも。


「ママ! ミシェル、弟か妹がほしい!」


 下の兄弟がいれば最後の一人じゃなくなるよね?


 って思ったんだけど、さすがに自分本意すぎるおねだりだったみたい。めっちゃ怒られた……。


「ミシェルに弟や妹ができたとしてもミシェルは独りぼっちになると思うぞ?」


 わたしを叱ったくせにちょっと家族計画を考えちゃったのかな。なんだかじわっといい雰囲気になりかけているパパママを余所に、長がそんなことを言う。メガレ先生も「そうだねぇ」って。なんでよー。


「これまで「集落の外に行きたくない~」、なんて言う子供はいなかったからね。ミシェルの弟や妹が生まれたとしてもきっとミシェルを置いて集落の外で暮らすようになっちゃうだろうね」


 えええ~。そうなのかな……。

 でもいつだったかお風呂でおばあが、外に出ていったもうおじさんになってる子供のこと、今はたぶん町で暮らしているけどそのうち戻ってくるんじゃないかって言ってたよね? 戻ってくる人もいるってことだよね?


「里帰りしてくる人なんてここ10年くらいいなかったんじゃないかな」


「戻ってきても一時的だ。大体すぐに出ていくものだ」


 集落の家族の顔を見に来て、近況や昔話をして、お土産を渡したり持たされたりして外の暮らしに戻っていく。時には集落に残っていた家族を連れて。


 それでいいって長は言うの。

 集落を存続させる必要なんてないって。

 外から人が戻ってくる事で外の情勢を得られたりもするけれど、それは時々行商に出ることで済むのだからって。


「むしろ、一度出ていった者がまた集落で暮らすようになったら外で何かやらかしたんじゃないかと疑うところだ」


 だから。

 ミシェルも外を見て来て、外で暮らしたくなったら集落を出て外で暮らせばいいって。

 戻ってくる必要もないって。




 そんなのやだよ……。






「ミシェル、大丈夫だよ」


「そうだぞミシェル。パパがついてるからな。怖くないぞ!」


 10日後。

 諸々の準備をして、行商隊出発の日となった。

 集落の外に出掛ける事にちっとも乗り気でなかったミシェルもこしひかりとともに当然のようにメンバーに含まれている。


「ママぁ……」


 ママは昨日からなんだか体調がよろしくないみたいで急遽お留守番になっちゃった。

 パパ隊員も行商メンバーだから、戻ってくるまでママは薬師のおばあのお家で暮らすんだって。わたしもそっちがいいようーー。


「大丈夫よミシェル隊員! 怖いのが来てもミシェルの魔法でやっつけちゃえば平気よ!」


 その、やっつけるっていう行為が怖いんだけど……。「パパにおまかせよ!」とか言わないのがママよね。ミシェルまだ5才になったばかりよ?

 だっこちゃん人形の如くママの脚にしがみついているわたしをあっさりと引き剥がしてパパに渡しながら長が注意の言葉を言う。


「今回は長期になるだろうから体調には気をつけるように」


 長は当然のようにお留守番。長だしね。


 いつもは一週間ほどの行商が、今回は一月前後を予定しているらしい。

 ミシェルの歩みが遅いだろうからっていうのと近隣の村への技術指導!? や、諸々の手続きをする予定があるからって。


「ミシェル。いろいろ見て学んできなさい。勉強、好きだろう?」


「うん……」


「こしひかりも、迷子にならんようにな」


 長がパパの左腕に座るわたしの頭をなでて、幼稚園かばんの中のこしひかりのちっちゃな頭もなでると、こしひかりはぷるっと頭を振ってからかわゆく「にゃ」ってお返事をした。

 わたしはねこちゃんの鳴き声っていったら「にゃ」とか「にゃあ」、もしくは「みゃあ」に聞こえるけれど、他の人は「にー」とか「みー」にしか聞こえないみたいなの。

 まあでも確かにまだか細いお声だからにゃんにゃん聞こえなくてもしょうがないよね。


「ミシェルもこしひかりも気をつけてなあ」


「ミシェルちゃん行ってらっしゃい」


 十数人のおじいやおばあが見送りに出てきているけど、行商メンバーがわたしを入れて7人だから、たぶん集落の住人のほとんどが集まっている。

 何人かはけっこうな年寄りで、寝たきりや外に出られないって人もいるみたいだけど、そういう人たちはお家に行かない限りふだんもミシェルとは接点がない。2、30人くらいの人口なのに会ったことが無い人もいるのよ。

 ふだんミシェルが集落で会っている、ここに見送りに来ているおじいおばあは畑やら林業やらをする元気があるいきいきシルバーだけど、いつまで元気でいてくれるかわからないんだよね……。


 そう思ったら長のいう通り今のうちに外の世界を見聞しておくべきなのかなって考えちゃう。いや、うん。わかってはいるんだけどね。


 それにいつまでも愚図っておじいおばあに心配かけてちゃ駄目だよね。

 今も心配そうに見ているおじいやおばあがいるけど、誰も一度だってミシェルは行かなくてもいいよねって言わなかった。みんな、心配でもミシェルは外に行った方がいいって思ってる。ミシェルのために。


 怖いから行きたくない。でもちゃんと行ってきますして安心させたいな。




「おじい。おばあ。


 行ってくるね」


「みぁああー」


 パパに抱っこされたまま、こしひかりのちっちゃな前足を持ってみんなにバイバイした。

 行ってきますって。

いまだに序章程度でおこがましいのですが……(汗

アルファポリスのファンタジー小説大賞に参加しています。

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