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10 お勉強楽しい!

 長の家に行った日から、わたしとこしひかりはほぼ毎日長の家に通っている。


 もちろん本を読むために。


 でも今まで文字に触れる機会もましてや学習の機会もなかったミシェル5才はまず文字を覚えるところから。


 長の家に行けばだいたいメガレ先生がいて、文字だけでなく、いろいろなことを教えてくれる。仕事をしながらだけど。


 どうやらメガレ先生は、この集落での事務方? 文官? そんな感じの仕事をしているみたい。

 そんな人に文字を教えてもらうとか、お仕事の邪魔をしているんじゃないかと思うんだけど、人口が少ない集落の事務仕事だからそれほど多くもなく、主な仕事が集積所の管理なんだそうな。ミシェルひとりの勉強を見るくらいはなんてことないらしい。しかもわたし……というか、集落の住人に知識を伝授するのもメガレ先生のお仕事なんだって。

 ママもメガレ先生に教わったって言ってたものね。


 そもそも事務仕事や先生のお仕事、この集落で産業以外の仕事をしている人がいるって知らなかったよ……。

 でもお給金もらっても集落で現金を使うことって無いよね?

 わたしもおじいやおばあがお小遣いをくれるからそこそこ現金は持っているけど、集落で使うことがないから前世の記憶を思い出すまでは、お金ってきれいな石ころと同じ扱いだったのよね……。ただ、「大事にとっておきなさい」って渡されるから、おもちゃにすることもなく大事にとってある。パパが作ってくれた貯金箱は、シンプルな宝箱というより賽銭箱みたいなんだけど、とにかく大きくて丈夫。箱自体が堅くて重たいから中身が入るとよけいに重たくて今まで動かすのが大変だったけど、今なら魔法で楽々。なんなら空間収納に入れておいてもいいしね。


 因みに現金は硬貨オンリー。集落の外では為替手形として紙や木札でやり取りすることもあるみたいだけれど、それだって信用があるもの同士だからできること。なので、一般的にはやっぱり硬貨のみの流通で、通貨としてのお札はないらしい。

 だからわたしの「紙のお金はないの?」なんて質問、普通だったら子供が突拍子のないこと言い出したって思われそうなものだけど、メガレ先生は戸惑うこともなく為替手形の存在や仕組みを教えてくれた。


「昔は紙のお金も使われていたんだよ」


「……どうして今は使ってないの?」


「両替をする機関……仕組みや組織がないからね」


 つまり銀行的なものが無いってことみたい。

 日本もお札は元々兌換金券で、銀行で小判や銀貨に替えてもらってたんだものね。


 昔は銀行があったのに今は無いのってどうしてなのかも教えてもらった。

 さすが集落の先生、メガレ先生はなんでも知っているのね。メガレ先生の言う昔って何百年とか前の事だった。

 その昔、今より文明が進んだ国家があって、銀行はその国が世界中に及ぼした仕組みなんだって。でもその国が滅んだことによって世界中に敷かれた銀行という組織も無くなってしまったらしい。


 何百年も前に滅んだ文明国家……古代文明ってこと? 素敵! 大 好 物!!


 って内心はしゃいでいたけど、歴史の始まりともいえる古代国家はもっと前に発生していて、その流れを汲む文明国家、今では古王国と呼ばれている国だと知るのは、もう少し後で世界の歴史を勉強しはじめてから。


 この時はもっとテンション爆上がりなことがあったのですよ……!


 メガレ先生のお仕事に発生しているお給金、メガレ先生はなんとほぼ全てを本の購入に注ぎ込んでいました!

 しかもメガレ先生のお父さんやそのまたお父さん……つまり、先祖代々でお給金を本に換えているらしい。貯金とかは? ……なんて質問しないよ! だって貯金したって集落にいるかぎりお金なんて使わないって知ってるからね!


 でもって長がいつもいる、最初に入った安楽椅子のある図書室みたいな部屋は書斎って呼ばれていて、なんと図書室は別にあるらしい……!


 それを聞いただけでもう興奮を押さえきれないと言うのに、書斎とは別の図書室っていう部屋はなんと3部屋もあった!!

 書斎と同規模のお部屋に書斎よりもぎっしりな本だらけのお部屋が続きで3部屋!


 これらの本は、長が言っていた昔空間収納のカバンで運んできた本だけでなく、メガレ先生たちが先祖代々に渡って収集してきた本とのこと。


「まだまだ増やすよ!」


 なんてとってもいい笑顔で自慢気に図書室を披露してくれたけどメガレ先生、結局それってお給金を集落に還元していると言うより、集落のお金で集落の図書を購入しているだけなんじゃ……。

 好きなだけ読ませてもらえるわたしとしてはとっても有り難いことなんだけど、メガレ先生の労働の対価とか考えるとちょっと複雑……。

 でも深く考えるとお給金の発生していない生産を担っている他の住人に対してはどうなんだ、ってなっちゃうから、みんなが納得しているのならそれでいいのかな?


 書斎にはわたしのお勉強用に机がひとつ運ばれた。

 普通に大人サイズの机だから、パパがわたし用に座面を高くした子供椅子を作ってくれたの。高さ調節のできる足台も付けてくれたから足もぶらぶらしないよ。

 今まで他の子供……ママとかどうしていたのかと思ったら、これまで先生に教わるのは、早くて10才頃からだったみたい。集落では文字を使う機会も無いし、積極的にお勉強したいと思う子供も少ないらしい。

 まあ、子供に限らず、なのかな?

 こんなに素敵な図書室があるのに利用者もほぼいない。雨の日におじいおばあが数人暇潰しに来るくらい? しかも本を読むでもなくお茶を飲みながらのんびりおしゃべり。時々盛り上がっちゃって長に「やかましい」って追い出されてるし……。なんて勿体ない。


 そのせいか、久しぶりの生徒であるわたしにメガレ先生はすごく丁寧に一生懸命教えてくれる。おかげでお勉強楽しい。

 ママも長の家用にこしひかりの籠を新しく編んでくれた。それにまだお昼寝が必要なミシェルの為におじいやおばあが作ってくれたカウチソファーが、いつの間にか書斎に置かれていたの。こんなとき、集落で自分がすごく愛されてるのがわかって、ミシェルに生まれて来て良かったって思う。また言っておく?

 神様ありがとー!


 文字を習い初めて大変助かったのが、ここで使われているのが表音文字、しかも母音と子音がセットになった日本語の仮名のような文字だったという事。……たしか音節文字って言ったかな? ローマ字みたいに分解されていない分、字数は60文字と多いけど、覚えてしまえば日本語のように読み書き出来るのがわたしとしてはありがたい。まあ、覚えてしまえば……だけど。ママはこれを覚えきれなくて読書が嫌になったみたい。9割は覚えているみたいなんだけど、残りが頭に入らないみたい。ママに限らず60文字全部覚えきる前に諦めちゃう人、けっこう多いみたい。


 そんなママのために60音図とも言うべき表を作ってみた。

 うん。日本語の50音図のように整理して、あかさたなだけ覚えてもらったの。

 ママは初め、今更文字を覚えるのは~とか言って嫌がっていたけど、あかさたなはまやらわだけ、これだけ覚えてってお願いしたら覚えてくれた。

 あかさたなを覚えてくれさえすれば、あとは60音図表を見ながらだったら読み書き出来るもんね。


 早速ママにお手紙書きました。

 ちゃんと表を見ながらだけど読んで、お返事も書いてくれた! うれしい~!

 黙読は出来ないみたいだけど、声に出しながら一文字ずつ読んでいたのもだんだん慣れて来ているから、そのうちすらすらと黙読出来るようになるかも。

 ママとお手紙の交換をしながらきゃっきゃしていたらパパがさみしそうにするから、大天使宛にもお手紙書くようになって、毎日2通のお手紙習慣が出来ました。

 わたしが書くお手紙には、必ず最後にこしひかりが肉球スタンプを押してくれるんだけど、ちっちゃくてかわゆいのー! こんなお手紙わたしがもらいたいよーー! って言ったら、インクの付いたあんよで紙の上を歩いてくれた! わたしの宝物になりました!


 メガレ先生はわたしの作った60音図表をすっごく褒めてくれた。表の出来についてだけじゃなくて、ママが文字を覚えられたことについての賞賛も入っているんだとは思うけど。

 この文字は古王国時代からすでに使われていて、当時の言語学者による似たような表もあるみたい。でもきゃきゅきょとかがごっちゃになっていて、50音に慣れたわたしにはちょっと分かりにくかったんだよね。だからこちらの文字で50音図表を作って、その他のきゃきゅきょとかを別にしただけで新しくわたしが何かを作った訳じゃない。でもみんながこれで文字を覚えやすくなったのなら良かったな。

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