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9 田舎のスローライフはこんなことも日常で

「に゛、に゛ゃーっ」


「……! …………!」


 硬直しちゃってたけど、たぶんシャーってしたかったに゛ゃーをこしひかりがしてくれたから、そろっと後ろに下がる事ができた。まだシャーできないもんね。両手でだっこしたこしひかりがいつもより震えてる。かわいそ可愛いわたしが守らなきゃ!


 このまま家に逃げ帰ってもいいけどこれって誰かに言うべき? 放置して誰かガプってされたらどうしよう……?


 目の前には草をかき分けシュルシュルと通過中の蛇。2メートルくらいありそう。やだ。そこで止まらないで……。


 こんなのが家の中に入ってきたらこしひかりが丸飲みされちゃう……っ!

 あれ……? この大きさなら頑張ればミシェル一匹くらい丸飲みできそうじゃない!?


「ど、どうしよ……。どうしよう……」


 蛇ってジャンプするんじゃなかったっけ? ジャンプするのはツチノコだったっけ? なんて考えてもっと距離を取ろうと後ずさったけど、おろおろしていたせいかぽてっと尻餅をついてしまった。


「に゛ゃーっ!!」


 わたしの尻餅で地響きでもした!? とたんに蛇がこちらに向かってきた。丸飲みされる……っ!


「ミシェル!」


 ちっちゃなこしひかりをきゅっと抱きしめた瞬間。もたげたかま首がスパっと切れて飛んだ。少し離れたところでぼてっと頭が落ちて転がった音が。


「ミシェル、大丈夫か!?」


 振り向く前に抱き上げられる。

 パパだ。ママもいる。


「ミシェル?」


「…ぇっ。ふぇええああああーーーーん。わあああーーーん」


「みゃあー。みゃああーー」


「恐かったなー。もう大丈夫だぞ~」


 わあわあ泣きわめくわたしの背中をちょっと強めにぽんぽんしてくれる。

 パパが助けてくれた。蛇恐かった。

 森に囲まれた集落で暮らしているけど、鳥やリス? ネズミ? 小さいげっ歯類以外の生きている動物を間近で見ることって実はあまりない。犬を飼っている家もないし。蛇なんか何ヵ月か前に50センチくらいのを初めて森で見かけて超びびっていたのに2メートルとか本当に無理。実はミルクをくれる山羊さんも頭突きで転ばされるからちょっと恐い……。うそ。けっこう恐い。四角い眼は恐くないけど毛はごわごわしてて刺さりそうだし。牛さんは大きくてそもそも近寄れない。


「どうしたの~」


「おう。どうしたどうした」


「ミシェル泣いてんのか」


 わたしの泣き声を聞き付けて、どこからともなくおじいやおばあがわらわらと集まってきた。


「おー、こんなのが入って来たのか」


「頭気を付けろ。牙刺さるぞ」


「枝持って来たぞ~」


「もうちょっと草も刈っときましょうかね」


 みんな泣いてるわたしの背中や頭をぽんぽんしてから蛇に集りに行っている。

 知ってる。蛇は死んだ後何十分も動き続けるって。恐いいいー。


「ミハエルがやったのか? きれいに頭だけじゃねーか」


「いや、アンジュだよ。けっこう遠かったのに魔法でスパッと。流石だよ」


 え? ママ? ママが助けてくれたの?


「たくさん皮取れた方がいいでしょ。あら、ミシェル泣き止んだ? びっくりしたのね~。もう大丈夫よ~」


 びっくりしたよ! パパがナイフとかで超高速でスパってしたと思ったら実はママが魔法でやっつけたってこと!?


 でもそっか。魔法って言ったら攻撃に使うよね、web小説とかでは。生活の便利魔法ばかり考えていたよ。これは練習しないと! 攻撃魔法が使えるようになったらあいつらを自分でやっつけられるようになるよね。あの、いつのまにか家の中に入り込んでる脚のなっがい蜘蛛! 蜥蜴!


「帰りが遅いから心配してたら、こしひかりの声が聞こえたのよ~」


「みゃっ」


 えらかったわね~よしよしって、ママがこしひかりのお耳の後ろをこしょこしょすると気持ち良さそうに頭を揺らしている。


「後やっとくからミシェル連れて帰りなー」っておじいやおばあたちに言われて、パパがそのまま家までだっこして帰ってくれた。ただいま。パパもおかえりなさい。


 家に着いたらそう間も置かずにおばあたちが入れ替わり立ち替わりお料理を持ってきてくれた。


「おっきな蛇恐かったわね~。もう大丈夫だからね~」


 よしよし、……って。


 いや、ここ森に囲まれてるんだから、恐かったけど慣れなきゃでしょ!? 甘やかしてどーすんのよ。

 恐かったけど。

 そのうち慣れるって思ってるのかな。

 死んじゃう前はずっと都会のマンション暮らしだったから動物と触れ合うこともなかったのよね。そもそもぜん息やアレルギーがあったからそういう環境で暮らしていたんだけど……。那須や北海道の別荘で過ごすこともあったけど、半分療養目的で出歩くことがそんなになかったせいか、役場の人が近所に熊が出た~なんて言いに来ても生熊どころか猿も鹿も猪もわたしは目撃していない。車窓から瓜坊らしきものを見たくらい? ……慣れるのかな……?


 ミシェルになってからはパパや集落の住民が狩ってくる猪や鹿なんかの動物の他に、魔法のある世界らしく魔物っていうのを時々見かける。もちろん狩りの獲物だからもう死んでるんだけど、普通の動物と違うのはいわゆる魔石を体内に持っている事と眼が赤いという事らしい。それと角や牙が発達していたり。

 その狩りの獲物の解体もまだ見たことないのよね……。狩ってきたきれいな姿のままか、解体後の毛皮とかブロックのお肉でしか見たことがない。

 でも考えたら、狩ってきた獲物が全部きれいな姿をしているわけがないんだから、ミシェルに見せないようにしているんだろうなって思い至った。過保護だな~。でも今はまだそれがありがたいのよね……。





「こしひかりはだいぶ歩けるようになってきたな~。パパのこと覚えてるかな~」


 お昼寝していたらそんな声が聞こえてきて目が覚めた。

 パパの声のほうへ寝がえりをうつと、ベッドに座っているパパがわたしに背中を向けてがんばれがんばれ言っている。這いずり這いずりしてパパのところまで行くと、こしひかりが一生懸命歩いて来るのが見えた。

 まだちゃんと足を踏ん張れていないんだよね。しっかり立てていなくて足がハの字になっちゃうの。でもよちよち歩きで一生懸命わたしのところまで来ようとしてる……! よちよちあんよ、かわゆい……!


「がんばれ、がんばれ」


 パパといっしょに応援するよ。


「にゃ」


「すごいよこしひかり~!」


 足もとに到着したとたんにパパがこしひかりを手のひらに乗せて絶賛する。パパだと片手の平に収まっちゃう。ふああああ……ちっちゃかわっゆいいい~。くてってなってるなにこのかわゆい毛玉は~~。


「ミシェル起きたのね」


 ママ! ママの顔見て思い出した!


「わすれてた! パンもらったの。鍛治のおじいに」


 幼稚園カバンの中から紙の包みを出す。

 お昼ごはんは食べたけど、おやつに食べてもいいよね。


「鍛治のおじい? ミシェル、朝は鍛治のおじいのところにいたのね」


「ううん。長のおうち」


「え!?」


 パパ、驚きすぎー。もしかしてミシェルの足じゃ階段上れないって思ってる?


「長のおうちでね、鍛治のおじいに会ってパンもらったの。それでね、長にご本が読みたいって言ったらね、メガレせんせいが字をおしえてくれるって。だからね、あとでまた長のおうちにいくの」


「……」


 パパもママも黙っちゃった。もしかして、ひとりで長の家に行くのは駄目だった?

 長の長い名前を思い出したらパパの名前の事を思い出した。そういえば鑑定するんだった。


 鑑定!


 ミハエル(28)

 人間

 男



 あれ?

 パパも名前だけだね。メガレ先生や鍛治のおじいみたいに家名っぽいのがないね? 男の人だから長い名前って訳でもないみたい。


「メガレ先生、か。確かに文字を教わるならお兄だよな」


 メガレ先生も「僕の仕事」って言ってたね。


「パパもメガレせんせいに字をおしえてもらったの?」


「ん~。パパはメガレ先生のお父さんに教えてもらったかな。でももういないからミシェルはメガレ先生が教えてくれるよ」


 ママはメガレ先生とそのお父さんどっちにも教わっていたらしい。


「でもすぐ眠たくなっちゃうのよね。ミシェルも枕持って行く?」


 枕!? ミシェルも、って! 長のところの本を読むのにママじゃだめな理由がわかった気がする……。

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