prologue
ひと目であの仔だと分かった。
ここは異世界だとか、たぶんほぼ同じくらいに死んだはずなのにあの時の姿のまま、だとか。
そんなことはぜんぜん関係なくて、また会えた! ってわたしの魂が歓喜したから。
だから思わず名前を呼んだの。
少し考えたら生まれ変わったからわたしの姿も声も別人な訳だし、そもそもリアルで触れ合ったのだってあの一度きりで、その時だってあの仔の意識はもうほとんど無かったから、わたしのことなんてわかりっこ無いって気が付いたはずなのに……。
でも何も考えずに呼んだ名前にこの仔はちゃんと応えてくれた!
これまで聞いたことがないしっかりした声で!
その一声ですぐにわかったの。
わたしと一緒だって! 健康な身体で生まれ変わったんだって!
うれしい!
「にゃあ」
かは……っ
ゆいーーーー!!
真っ白な毛並みに灰色がかった水色の眼。
後にこの世界の神様に聞いた話では、この世界には猫という生き物は存在しなかったらしい。
こんなに愛らしい生き物が存在しない世界とか……っ!
『いいこだね~。あ~、いいこだいいこ。いいこだね~』
それは人気の無い夜にやって来る。
と言ってもわたしがいるんですが。
日中は移動してたりするから一応遠慮してるのかな?
「またやってる」
でも構いたくなる気持ちは分かるから邪魔はしない。夜は普通に寝たいしね。
神様が他の世界……地球を覗いていたとき、不意に目についた猫。
人と暮らすその小さな生き物はこの世界では見かけない動物で、ひどく興味を引かれたらしい。
姿かたちの愛らしさもさることながら、ときに気まぐれときに甘えん坊。
そんな猫という生き物にすぐに夢中になった神様は、しょっちゅう地球の人の暮らしを覗いては、人と暮らす猫を観察していたんだそうな。
もちろん自分の世界にだって可愛らしい生き物はいるし、他の世界にも可愛らしい生き物はたくさんいる。が、なぜかどうしようもなく惹かれる存在それは猫!
『なんて愛らしいんだ! 奇跡のような存在だ!』
可愛らしい猫を観察しているうちに、どうにかして自分の世界に連れて来られないものかと考えるようになったのは当然の事だった。
そんなとき、一匹の仔猫の生命が儚くなった。
生後一月にもならない可愛らしい白猫だった。
白猫は死ぬ際に、図らずも人間を一人道連れにしてしまう。
神様はちょうどその様子を見ていた。一匹と一人の肉体から魂が離れるところを。
否応なしに業を背負ってしまった白猫と、道連れに死んでしまった女性の魂。それを確保した神様は地球から譲り受けて自分の世界に連れて来たのだった。
いいこだね~。
見切り発車感が否めないのですがっ。
だってにゃんにゃんにゃんの日なんだもん!